“派遣切り”は変動費削減の動き

スーパーA社の固定費、変動費、限界利益
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スーパーA社の固定費、変動費、限界利益

不振の続くスーパーA社の2007年度の売り上げは1億円、利益は出ず300万円の赤字決算となった。08年度の業績はさらに伸び悩み、売り上げは10%減の9000万円、赤字額は前年度の2倍の600万円となった。

このケースの場合、売り上げの減少分と利益の減少分が釣り合っていない。なぜ、このような結果となったか。

「この問題を解くカギは、『限界利益』を理解することにあります」

経営コンサルタントの小堺桂悦郎氏は開口一番、こう言った。

限界利益とは、売上高から原材料費や運搬費、外注費などの変動費を引いたもの。

「限界利益には人件費や販売管理費、光熱費、家賃などの固定費が含まれています。企業の最終的な利益は、限界利益から固定費を引いた金額。固定費は売り上げにかかわらず常に変わらない費用ですから、売り上げの減少分と利益の減少分に差が出るのです」

冒頭のシミュレーションをさらに詳しくみてみよう。スーパーA社の場合、仕入れ費用や運搬費などの変動費は、売り上げに比例している。変動費を尋ねると、07年度は7000万円、08年度は6300万円であった。

A社の限界利益を計算してみよう。すると、07年度は3000万円、08年度は2700万円であることがわかる。

一方、A社の固定費を尋ねると、3300万円であった。この金額は両年度とも変わらないため、07年度の赤字額は300万円だったにもかかわらず、08年度はその2倍の600万円にまで跳ね上がったのである。

小堺氏はこう語る。

「スーパーのような仕入れ販売業は、一般的に売り上げの減少分に比例して変動費も減少してくれるからまだ助かります。しかし、製造業の場合は、変動費が売り上げにすんなりと比例(減少)するとは限りません。たとえば、製造業や建設業の場合、工場現場の作業員の人件費も製造原価にのってくるんです」

では、赤字幅を少なくするためには、企業はどのような行動をとればいいか。

小堺氏によると、「まずは変動費を圧縮することによって、限界利益を上げること」が重要。そのためには、生産コストの圧縮や仕入れ値の値下げ交渉、広告費の削減などを行わなければならない。

「今、社会問題化している派遣切りですが、これも変動費をできるだけ売り上げの減少に比例させようとする動きです。単純な話、車の生産台数が50%ダウンになったのであれば、派遣社員の数も50%ダウンさせなければ、売り上げに対する変動費のバランスが崩れてしまう」

まず限界利益を上げ、次に固定費を削減すべし

まず限界利益を上げ、次に固定費を削減すべし

一般的に正社員の人件費は固定費だが、製造部門などに携わる契約社員や派遣社員の人件費については変動費となる。派遣切りが横行するのは、企業が変動費を圧縮しようという動きの表れの一つであるのだ。

変動費を削減して限界利益を高めてもなお、赤字が発生してしまう場合、企業はいよいよ固定費に手をつけなければならなくなる。

最も代表的な固定費といえば、正社員の人件費工場現場の作業員の人件費も製造原価にのってくるんです」

では、赤字幅を少なくするためには、企業はどのような行動をとればいいか。

小堺氏によると、「まずは変動費を圧縮することによって、である。冒頭のシミュレーションのごとく、売り上げ低迷による赤字急拡大を食い止めようと各企業が現在断行している“正社員のリストラ”は、まさに背に腹は代えられぬ厳しい懐事情を表しているといえよう。

(坂本道浩=撮影)