西田敏行

1947年生まれ。福島県郡山市出身。舞台役者を経て映画、テレビにも活動の場を広げる。映画「釣りバカ日誌」「ゲロッパ!」をはじめ、幅広い作品に出演。日本を代表する名優である。88年と94年に日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。2008年には紫綬褒章を受章。最新主演映画「星守る犬」は、「とにかく泣ける」とブームになった同名コミックが原作。愛犬とともに東北を旅するこの映画は、震災前の福島と宮城の美しい風景が見られることでも話題となっている。6月11日より全国東宝系にて公開予定。


 

福島の中通り育ちですから、魚にはうるさいですよ~。大人になったら鮨屋でカッコよく鮨をつまむのが、子どもの頃の憧れでした。初めてカウンターに座ったときは感動したなぁ!

映画「釣りバカ日誌」シリーズでは、日本全国でうまい魚を食べる機会に恵まれました。どこの港に行っても、地元の人はみんな「うちの魚は日本一」って言うんですよ。たとえば、ぼくは福島・いわきのメヒカリが日本一うまいと信じていますが、愛知・蒲郡の人は「いやいや、蒲郡のメヒカリこそ日本一」と言う。ぼくは、それでいいと思うんです。それぞれの土地に山があって川が流れ、川が海に注ぎ込んだエサを食べて魚が育つ。だから魚は、故郷の土地の味がするんですね。そのうえ、うまい魚があるところには、それに合ったうまい地酒があり、その土地に根差した人情がある。ぼくは、22年の間に22回も日本一の味を味わえたわけです。みんなが「自分の故郷は日本一」と自慢できる、美しい山や豊かな海を守りたいですね。

日本各地でいろいろな味に出合いましたが、世界各国でもさまざまな食を体験しました。南米のアマゾン川流域では、ピラニアや巨大淡水魚のピラルク。あっさりと淡泊な白身で、なかなかうまいんですよ。ピラルクをさっと焙って、鮨を握ってもらったらおいしいだろうなぁ。アラスカではビーバーのしっぽ。全部脂肪で、串に刺して焼くと皮はカリッと香ばしく、身はとろりと白子のよう。これをつまみにウオツカをやるんです。北極圏では、イヌイットにアザラシの肝を生でご馳走になりました。今解体したアザラシが目の前にドターッと横たわっているという状況で。味は牛のレバ刺しみたいで、ニンニク醤油がほしかった!

東部アフリカの遊牧民レンディーレ族には、ラクダのミルクにラクダの血を混ぜた飲み物をいただきました。ラクダの首に矢を刺して、ピューッと出てきた血を、ミルクを入れた器で受けて飲むんですよ。見た目はいちごミルクみたいなきれいなピンク色。でも味は……血は混ぜないでくれと思いました(笑)。

珍しいものをたくさん食べてきましたが、おもしろがっているわけではありません。その土地に伝わる食文化には、生きるための人間の知恵が詰まっているんです。たとえばアザラシの生の肝には、北極圏では摂取しづらいビタミン類が含まれているし、ラクダの血は、乾燥した大地で貴重な鉄分を補給できます。その土地に行ったら、その土地の人が食べているものを、ごく普通に食べる。食文化を通じて、その土地の人たちの思いや心情が短時間でわかるというのかな。食べるという身近な行為から、その土地を理解したいと思うんです。