人間関係を構築するうえで、成功者とそうでない人はどこがどう違うのか。それがわかれば、成功への道のりも見えてくるというものだ。世界中のVIP1000人以上に取材を重ねてきたジャーナリスト・谷本有香さんにお話を聞いた。

なぜブッシュは大統領になれたのか

純粋に商談だけをするビジネスの場合は別として、たとえばパーティのような半分プライベートな空間では、成功者たちはほとんどビジネスの話をしません。まるでそれがタブーであるかのように仕事の話を避け、スポーツやそのときの流行、自分の趣味、家族の話……と、相手の関心を引き、できるだけ心に残りそうな話をします。雑談の場で感じた「気持ちのいい人だな」という印象が、ゆくゆくはビジネスにも良い影響を及ぼすことを経験上知っているのでしょう。彼らの本音を代弁するなら、初対面ですぐビジネスの話をするのは無粋。特に海外のエグゼクティブにいえることですが、彼らは「雑談の達人」なのです。「面白いな」「もう一度会いたいな」と思わせることで、瞬時に相手を魅了します。

前米大統領ジョージ・W・ブッシュ氏(写真=時事通信フォト)

私がこれまでに会ったエグゼクティブの中でもっとも印象的な「雑談の達人」は、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領です。彼は、その発言を批判されることも多く、日本でもあまり「クレバーな人」という印象はありません。しかし、韓国で行われたある晩餐会で会った彼は、スペシャルゲストであるにもかかわらず、ホストのように機能して、一人でいる人同士を引き合わせては話題を提供し、場が盛り上がったらサッと立ち去る。そして、軽快なジョークを飛ばしては、その場の空気を盛り上げていました。無意識かもしれませんが、小難しい話をして知性をひけらかすのではなく、むしろ少しフランクな話題を選ぶことで「自分は雲の上の人ではないよ」と人間味をアピールしているようでした。

おかげで、「少し意地悪な質問をしてやろう」というくらいの気持ちでいた私も、彼のチャーミングな人柄の虜になってしまったほど。また、その場の空気を人間的な魅力で掌握する様を見て、彼がアメリカという超大国のトップになれた理由を初めて理解することができました。