キューバを食い物にした頭脳派マフィア

昨年7月、アメリカとキューバは双方の大使館を再開。実に54年ぶりに国交を回復した。両国が国交を断絶した1961年当時、世界は米ソ冷戦のさなかにあった。キューバという国は、カリブ海に浮かぶ日本の本州の半分ほどの細長い島国だ。しかし、米本土のフロリダ半島とは、わずか150キロしか離れていない。

それだけに、アメリカにとっては地政学的にも重要な国といっていい。だからこそ米国は、スペインから独立したキューバに莫大な資本投下を行った。鉄道や道路を整備し、砂糖、石油、林業などの生産を拡大させた。第二次大戦後も、クーデターで誕生したフルヘンシオ・バティスタ政権を支援、結果的に独裁体制の強化に手を貸したのである。

『マフィア帝国 ハバナの夜』T・J・イングリッシュ(著) 伊藤孝(訳) さくら舎

だが、こうした巨大な投資を呼び込めた理由はそれだけではない。この本でノンフィクション作家のT・J・イングリッシュが暴露したのは裏社会の暗躍である。とりわけ、52年から59年までの7年間にわたって、キューバの首都・ハバナは驚くほどの経済成長の恩恵に浴した。ラスベガスと肩を並べるような大規模なホテルやカジノ、旅行者用リゾートが建てられた。

その様子はまさに、映画『ゴッドファーザー』のシーンを彷彿とさせる。本文から抜き出すと「豪華なナイトクラブや、そこで演じられるフロアショー、美しい女性たちに加え、一獲千金のギャンブルの魅力がハバナに大量の現金を流し込んでいた」のである。そして、それらを取り仕切ったのがアメリカマフィアのボスたちにほかならない。