あなたはどうして話すのだろう。人を叱るためか、物を頼むためか。最も重要なことは、「誰に」「なにを」ではなく、「なぜ話すのか」である。相手や場面に応じ、目的をみつめなおすことで、話し方は劇的に変わる──。

誰も傷つかない言葉「状況が変わった」

論理思考(ロジカルシンキング)というと「『正しい』理屈を並べるものなので、正論の通じない相手には使えない」と思っている人もいます。しかし実は論理思考は、そういう局面でも強力な武器となりえます。

本項のテーマである「上司を動かす」という局面で、とりわけ難しさを感じるのは、上司と考えが違うケースでしょう。「明らかに自分の提案のほうが正しいのに上司は認めない」という経験をされた方も多いと思います。そういうケースはどう考えればいいのでしょうか。

ここでのポイントは「タテマエの理屈」だけでなく「ホンネの理屈」まで押さえることです。人間の意思決定には感情がともないます。建前では会社にとって最適な決断をするべきであっても、上司も人間です。やったことがないとか、困難が予想されるとか、自分の以前の判断を否定することになる、といった場合、受け入れたくないこともあるでしょう。

そういった「ホンネの理屈」を読み取り、それも踏まえて説得を行うようにすると、上司を動かせる確率が上がります。逆に言えば、たとえロジカルであっても、「自分が正しいことを証明する」だけであったり、ましてや上司を論破してしまったりすれば、人を動かせる確率は低くなってしまいます。

では、具体的にはどうすればいいのでしょうか。たとえば現在のやり方を変更する提案をしたいとします。ところがそのやり方を決めたのは上司だとすると、上司としては自分の判断が否定されたように感じてしまうかもしれません。そこで必要になるのは「自分が間違っていた」と感じさせないように提案することです。具体的には「状況が変わってきたので、このように変えてはどうでしょうか」と持ちかければ、以前の判断は間違っていないように見えます。