「現地現物」「教え教えられる風土」復活へ

「新入社員研修を見ると、今その企業が一番大事にしたいもの、残していきたいと考えているものが何なのかがわかります」と、話すのは、今回、取材に同行した東京大学の中原淳准教授。専門は人材育成だ。新入社員研修を通じて、トヨタ自動車が未来を担う新人たちに残したいものとは一体何なのだろうか。

トヨタは、2015年度から全社的な教育改革に乗り出した。きっかけは、09年から10年に北米で起きた大規模リコールにつながる品質問題だった。00年代に入り、急激に生産台数が増える中で、業務の効率化や職務の外注化が進み、「業務をやりきる」機会が減ってきたうえ、「教え教えられる風土」や「現地現物(現場に足を運び、実際に現物を見て触れることで本質を見極める)」といったトヨタ社内で大切にされてきた価値観が失われつつあるのではないか、企業の成長に人材の成長が追いつかなくなっているのではないか、という問題意識が生まれたからだ。

教育改革の大事な入り口になる新入社員教育プログラムは、期間をこれまでの半年から1年に延ばし、「基礎固め徹底プログラム」として刷新された。入社半年後の9月に各部署に仮配属し、OJTも含めて1年間を見習い社員として徹底的に鍛えるという。

エンジン製造45年のスペシャリストが講師を務める。手作業で組み立てていた時代の経験を交えながら、順序よく研修を進める。

新入社員教育プログラムの大きな特徴は、トータルで5カ月に及ぶ販売店、工場での実習だ。まさにトヨタが重視してきた「現場」を大事にしてほしいという思いが込められたプログラムとなっている。

4月に入社した新入社員は2カ月間、「トヨタウェイ」といわれる理念や心構え、「トヨタ式」の仕事のやり方などを学ぶ集合研修の後、6月から8月半ばまで、まずは全国各地の販売店(ディーラー)に送り込まれる。

販売店では、車を売る仕事を通して販売、サービスの最前線を体感し、「お客様第一」の心構えを学ぶ。

9月からは仮配属となり、配属先での部門別研修となる。そこでは、部門内の様々な仕事をOJTで経験し、部門全体の理解を深めていく。

年が明けて、1月から3月にかけて、今度は配属先部門に関連のある工場に送り込まれての実習が行われる。工場実習では実際にラインの中で働くことで、モノづくりの重要性、トヨタ生産方式など、トヨタ流の仕事の仕方を理解するという。

また、OJTでの研修以外にも、ビジネススキルやトヨタ流の仕事の仕方などをEラーニングで学ぶ課題があり、定期的な試験も設定されている。