あなたはどうして話すのだろう。人を叱るためか、物を頼むためか。最も重要なことは、「誰に」「なにを」ではなく、「なぜ話すのか」である。相手や場面に応じ、目的をみつめなおすことで、話し方は劇的に変わる──。

質問と行動は「対の関係」にある

私の会社では、企業の幹部などを対象に「コーチング」を行っています。コーチングとは、問いかけによって相手の能力を引き出し、その目標達成を促すこと。私たちコーチは、コンサルタントのようなアドバイスは一切しません。また何かを教えるわけでもありません。そのかわりに“質問”をします。

なぜ質問するのか――。それは質問と行動が“対の関係”にあるからです。人は何か行動を起こすときに、必ず自分自身に質問しています。その意味で、「できる部下」と「そうでない部下」の違いは、質問の差です。同じ書類を見たときに「ここはおかしい」と気付けるかどうか。それは自分のなかに問いを持てているかどうかの違いです。

質問をたくさん持っている人、いろんな視点から質問ができる人は、仕事ができる人。質問の質が人生や仕事の質を決めていると言ってもいい。行動がいつも同じ人は、自分のなかで同じ質問だけを続けている人です。

つまり、人の行動を変えるためには、違う質問を備える必要があるわけです。方法は2つ。自分で考えるか、人から質問してもらうか。後者を助けるのが、私たちコーチの役割です。

人から尋ねられたことが頭のなかに残って、その答えを探し続けたり、いろいろと発想を展開したりすることで、やがてその質問は内在化されます。上司から「今月の売り上げはいくらか」と質問され続けた部下は、売り上げばかりを考える部下になる。だから、部下とのコミュニケーションは、部下に「どんな質問を投げかけるか」という一点に集約できると思います。

質問には大きく2つの種類があります。一つは「クローズド・クエスチョン」。「本当にお客さんに電話したのか」「会議の準備は終わったのか」など、イエス・ノーで答えられる質問です。事実確認や情報収集には便利ですが、相手の思考や視野は広がりません。