年々深刻さが増す空き家問題。原因の1つは、日本人の新築信仰にある。日本で売買される住宅のうち、9割が新築だ。これに対して、欧米では中古が8割を占めるという。

中古の物件にリーズナブルに住み、自分の好みに合わせてリフォームして暮らす……こうした楽しさを日本でも広めたいと、中古物件市場の開拓に奮闘しているのが、リノベるの山下智弘社長だ。

中学高校社会人とラグビー漬けの生活を送っていた山下氏が、会社を辞めてリノベーション事業で起業した理由とは? 山下智弘氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。

「リノベる」と「リノベる。」

【田原】山下さんの会社は住宅のリノベーションをやっているそうですね。リノベーションって何ですか?

【山下】簡単に言うと、リフォームは“re-form”で、住宅を元の形に戻すことを言います。具体的には、クロスが剥がれたので貼り直すとか、キッチンを入れ替えたりします。一方、リノベーションは“renovation”で、革新。使えるものは使いますが、その方に合わせて新たにつくり替えます。たとえばマンションなら、私たちの場合は配線・配管すべて取り払ってコンクリートの状態まで戻して、構造体はそのまま使いつつ、その方に合わせてつくり替えていきます。

【田原】なるほど。それで社名も「リノベる」なんだ。

【山下】はい。社名は「リノべる」で、サービスのほうは「リノベる。」といい、句点(。)を付けています。

【田原】句点? どうして?

【山下】リノベーションをするときには、「どんなものにしますか」という表面的なヒアリングではなく、その方の価値観や人生そのものを知る必要があります。たとえば「初恋はどんな方でしたか」とか、「日曜日にはどんな音楽を聴きますか」ということまでおたずねすることもあります。お客様のいままでの人生を整理整頓して、一度、丸を打ってから、新しい始まりを一緒につくっていくことが私たちの仕事。そういう意味を込めて、「。」をつけました。

【田原】そもそもお客さんにとって、リノベーションはどんなメリットがあるのですか。

【山下】私たちは、「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」というミッションを掲げています。この「かしこく」は、価格的なメリットを指しています。通常、新築のマンションは購入した瞬間に資産価値が下がって、20年、30年でほとんどゼロに近づいていきます。そのタイミングで買ってリノベーションすれば、資産価値として落ちにくい。もちろん間取りや配線は古いのですが、つくり替えることで「素敵に」もなります。