「時折、無性にギョウザが食べたくなる」

餃子が好きで、よく食べる。餃子に季節があるのかは知らないが、1年で一番おいしく感じるのはいま時分、春から夏にかけてだ。なんといってもビールとの相性が抜群だ。筆者は、餃子とライスを一緒には食べない。あくまで酒のアテである。ビールのあとは酎ハイや紹興酒を飲む。

表紙の写真にひかれて本書を読んだ。作家やエッセイストら39人の餃子にまつわるあれこれがつづられている。餃子への思いが、餃子の具のごとくギュギュッとつまっている。

『アンソロジー 餃子』池田満寿夫ほか著 PARCO出版

餃子愛に満ちている。「餃子こそ古今東西の料理中、最高と思う」と藤原正彦氏は断言する。高校時代に初めて食べて感激して以来、「餃子一本槍となった」という。小泉武夫氏は「『餃子丼』が大好きである」と宣言し、餃子から染み出る汁や油やしょうゆが混然一体となったメシをワシワシかき込む喜びを熱く語る。林家正蔵氏は「手前味噌で恐縮だが、我が家の餃子は旨い」と胸を張る。

ほかにも「どうして世の中にこんな旨いものがあったのかと夢見る想いで、ぎょうざを大好物の一つに数えている」(池部良氏)、「時折、無性にギョウザが食べたくなって、旨い店を探すことがある」(泉麻人氏)などなど餃子愛はとどまるところを知らない。料理名人として知られるタモリのオリジナルレシピも紹介されている。

そんななか、異彩を放つのが、山口文憲氏だ。あろうことか餃子を否定する。「餃子なんて、べつにうまいものでもなんでもない」と言い放つや、返す刀で「あんなものをうまいうまいとむさぼり食う人間の気持ちが、私にはまるでわからない」と切り捨てる。そんな山口氏もいちおう中国文化圏の本来の餃子(水餃子や蒸餃子)は認めるとしながらも、「しかし、日本式餃子はいけない」と断じる。ここまで否定されるとむしろ心地よい。清々しささえ感じる。