「プロ経営者」の退任が相次ぐ本当の理由

5月、通信教育大手のベネッセホールディングスの原田泳幸会長兼社長の退任が話題になりました。2014年6月に、鳴り物入りで日本マクドナルドホールディングス会長から転じたものの、わずか2年で去ることになります。就任直後に主力の通信教育講座「進研ゼミ」の顧客情報流出があり、会員数が減るなどの誤算があったことも確かです。しかし、原田氏は退任会見で「トップとして事実を重く受け止め、けじめをとると決めた」と述べています。実際、16年3月期の決算は82億円の赤字でしたから、期待された結果を残せなかったと評価されても仕方ないでしょう。

最近よく「プロ経営者」という言い方を耳にします。外資系企業や異なる業界、有名企業のトップを経験した人物を外部から自社に招くケースです。原田氏のほかにも、LIXILグループの藤森義明社長が有名です。藤森氏はゼネラル・エレクトリック上級副社長でした。11年の就任後、積極果敢なM&Aを行い、業容拡大を図りました。しかし、買収したドイツのグローエ傘下の中国法人の不正会計を見抜けず、多額の特別損失を計上しての退任です。

私は、かねてから「プロ経営者」に経営を任せるというやり方は、日本にはなじまないと警告を発していました(2014年6月30日NHKニュース番組でもコメント)。なぜなら、それが日本の経営のメカニズムにそぐわないからにほかなりません。ですから、今回の原田氏や藤森氏の降板にしても必然という捉え方をしています。というのも、日本企業には欧米のように専門知識・スキルやノウハウを売ったり買ったりしてビジネスを進める風土はありません。一橋大学の野中郁次郎名誉教授の『知識創造企業』を踏まえると“醸造型の経営”と言えると思いますが、酒を醸すように時間をかけて自社の特性を創り上げていきます。それなのに、いきなり落下傘で人間関係がさほどない企業にトップとして降り立ったとしても、すぐに社内の人望を得て、それなりの結果を出すのは無理です。

1979年、エズラ・ヴォーゲルが、ベストセラーとなった『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で日本企業の強みを論じました。それによると、技術レベル、会社に対する忠誠心、教育水準のいずれもが高いことが武器になったということです。いうまでもなく、これらは一朝一夕にはできあがりません。実は、アメリカの優良企業であるアップルやマイクロソフト、P&Gなどの経営は、必ずしも短期効率・数値重視型ではなく、むしろ日本的経営の良い部分を意識していると思います。