2013年12月に出版された『嫌われる勇気』がベストセラーとなり、ブームとなったアドラー心理学。マンガなどの関連本も出版され、手に取ったという人も多いだろう。とはいえ、アドラー本人が書いた原著を読んだという人は多くはないはずだ。『嫌われる勇気』はアドラー心理学のエッセンスを哲人と青年の会話形式で展開していくいわゆる解説本。立命館大学で心理学を教えるサトウタツヤ教授は、アドラーの思想は原著『人生の意味の心理学』を読まなければ、正しい理解はできないと警告する。
心理学の世界にはアドラーのほかにも、職場で役立つ名著がいくつもあり、それも本来原著で読むべきだ、と続ける。ビジネスマンが読むべき心理学の名著は何か。サトウ教授に解説をしてもらった。

アドラーを“誤読”している人はかなり多い

心理学は一人称、二人称、三人称の三つの関係性でアプローチします。一人称は、私個人に悩みがある場合です。それに対して、部下や子どもとのコミュニケーションの問題を考えるのが二人称的な関係。部下が何人かいて評価しなければいけないというのは三人称的な問題です。

どの人称の問題がクローズアップされるのかは時代によって変わります。

私は血液型性格判断ブームの研究をしてきました。時代ごとに注目を浴びた本を見ていくと面白いことがわかります。昭和2年に古川竹二が『血液型による気質の研究』を書いています。古川は教師から見た生徒の気質を分類しているので、これは三人称的な捉え方といえます。昭和46年の能見正比古の『血液型でわかる相性』は相性ですから二人称です。そして平成19年の『B型 自分の説明書』は自分のことを知りたいという一人称の問題に照準を合わせています。

このように時代が下るにつれ、人の関心が三人称から二人称、一人称へと移り替わっていくのです。

アドラーブームもその流れの中にあります。実際、アドラーを“誤読”している人はかなりいます。原著を読んだわけではなく、都合のいいところを抜き出してきて、それが全てだと信じ込んでいる人が多いように感じます。その内容が解説本やインターネットで広がり、読んだ人が共感する。そんな連鎖の中でブームが起きているのです。