「僕にとって打ち合わせとはまさに仕事そのもの」とクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏は語る。現在、年間30以上のビッグプロジェクトを手掛ける佐藤氏だが、意識的に打ち合わせするようになってから、10倍の仕事量を無理なくこなせるようになったという。
──「会議」と「打ち合わせ」を分けて考えているそうですが、その違いとは。
アートディレクター 佐藤可士和(さとう・かしわ)
博報堂を経て、「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクションなど。著書に『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)などがある。

僕なりの定義ですが、会議は最終判断としての意思決定の場。すでに各部署でさまざまな問題が整理され、議論されたのちに判断が下されるのが会議でしょう。一方、打ち合わせはその前段階ととらえています。だから、打ち合わせで結論を全部出さなくてもいい。ただし、何も決めなくていいわけではありません。少しでも具体的に前へ進むこと。この点が重要です。

頑張ったのに仕事で結果が出なかった、という経験はありませんか。僕にはあります。そういうときは打ち合わせ段階で手応えを感じられなかったケースが多い。もちろん、アイデアなんてそう簡単に出せるものじゃない。だけど、方向性のイメージなら提示しあえるし、共有できる。そこで会議にあげるために必要な議論をし尽くし、結果をしっかり出さないといけない。

僕は会議を決勝戦と考えています。打ち合わせは1回戦、2回戦、そして準決勝に相当する。つまり、打ち合わせも練習ではなく試合なんです。毎回真剣勝負でやらないと勝ち上がれない。参加者が違和感をおし殺して「いいですね」などと相槌を打っておいて、後から「やはりあれはなしで」とひっくり返すような非効率を許す余裕はありません。

だから僕は、最初の打ち合わせでそのプロジェクトの打ち合わせの回数を決めます。何回戦目で決勝かわからないまま進めるとダレがちですし、「とりあえず、そんな感じで」と曖昧に終わらせたくない。最後に必ず「これでいいですね」と決めた事項を確認します。そうすると、次までにそれぞれ自分がするべきことがクリアになる。

また、打ち合わせをする以上、全員参加が絶対です。参加メンバーとして何も発言しないなんて論外で、自分のパフォーマンスを出せない人は存在意義がありません。打ち合わせでその人の仕事のレベルはわかるものです。

もちろん、1回のミスですべての評価が下がることはないし、シュートやアシストなど役割はいろいろあっていいですが、毎日の積み重ねが評価につながると思います。会議やプレゼンなど「ここぞ」というときだけ頑張るんじゃなくて、ふだんのちょっとした打ち合わせをないがしろにしていると、「小さな奇跡」をみすみす逃しかねません。