孫はプレゼンの冒頭で動画を効果的に活用している。例えば10年6月の「新30年ビジョン」の発表会では、孫がステージに現れる前、同ビジョンを策定していくプロセスがスクリーンに映し出された。

映像には、前年の株主総会における孫の「来年の株主総会で新30年ビジョンを発表する」という宣言からスタート。グループの新入社員から幹部までが熱心に議論を交わす様子が描かれていた。それを見ただけでも、このビジョンの重要性が伝わってきて、その後のプレゼンに期待が持てるはずだ。

スライドは聴衆側にも置き、手元のメモは最小限にとどめる。目線は常に聴衆に(決算説明会/上・2012年3月期、下・2011年3月期)。

その後、おもむろに孫が登場し、スポットライトに照らされる。壇上の孫は、会場に集まった株主、社員、一般招待客に語りかけるように話しはじめた。

映像で注意を引きつけておいて、自身が登場し、最初は小さな声で語りかける。これが孫流プレゼンのやり方だ。

その後、孫は「検討過程で、ソフトバンクグループの社員が次の30年ビジョンを考え、プレゼンを行いました。私がうれしかったのは、すべてのプレゼンの中心に『人々の幸せに貢献したい』という思いが据えられていたことです」と、やや声を大きくしながら続けた。

大事なことだが、孫のプレゼンでは事前に手元資料を配布しない。これをすると、それを読めばいいと考えて、孫の話を真剣に聴かなくなってしまう人がいないとも限らないからだ。

彼はときとして誠実に、また熱心に語りかけ、最後は感動的なエピソードで締めることが多い。そのためにも、聴衆には自分と向き合ってもらうことが必要だ。

だから、彼はいつでもメモ類を見ることなく、ほとんどの場合はピンマイクを襟につけ、ステージを縦横無尽に歩きながら話す。聴衆の理解度によっては、話す内容を変えることもある。