実力派部長の最大の欠点は「女好き」

「単純な不倫問題でクビを切ることはありませんが、これだけ複雑な事案は初めてです。しかも“直訴”騒ぎまで発生し、収拾するのに本当に苦労しました」

こう語るのは大手広告業の人事部長です。デザイン部長のA(45)はクライアントの評価も高く、社内でも屈指の実力派部長。だが、唯一の欠点は病気とも呼ぶべき“女好き”。浮き名を流した女性社員は数知れずといいます。中には別れ話がこじれ自殺未遂騒ぎを起こした女性もいたそうですが、会社はあくまでプライベートな問題として無視してきました。

『人事部はここを見ている!』溝上憲文著(プレジデント社刊)

しかし、今度ばかりはそういうわけにはいきませんでした。発端はデザイン部の新卒女性に手を出したことに始まります。

「デザイン部はAと関係を持った30代の中堅女性が多く“大奥”と噂されていました。互いに割り切ったつきあいだったのか、大きなトラブルもありませんでした。ところがAが新卒女性のBに手を出した途端、回りの女性からBがいじめを受けるようになったのです。自分たちより若い女性に対する嫉妬なのでしょうが、Bも耐えられず人事に泣きついてきたのです」

まさにパワハラ事件です。人事部長は真偽を質すためにBにあからさまないじめをしていたデザイン部の女性3人を呼び出しました。ところが彼女らは逆に居直ったそうです。結束して、こう言い放ちました。

「A部長を辞めさせてください。さもなければA部長の不行跡を社長に直訴します。それでも無理なら私たちが辞めます」

いずれもベテランの仕事ができる女性です。人事部長はほとほと困りましたが、いくらAが優秀でも管理者として職場の秩序を乱した責任は重い。最終的にAと彼女らを天秤にかけ、Aが身を引くのが得策と判断し、社長の内諾も得ました。

さすがにAも自分のせいで職場の雰囲気が悪化し、業務が進まないことを自覚していたのか、依願退職にあっさりと応じたそうです。後日、被害者のBも自ら退職しました。Aはその後、中堅広告会社の幹部職として転職しましたが、噂ではBもそこで働いているらしいということです。

※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。

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