わが家の家計に稲盛和夫なら何とアドバイスするだろうか――。経営者の勉強会「盛和塾」で直々に哲学を学んでいるファイナンシャル・プランナーに徹底取材した。

Q. 夫の昼食は「300円の牛丼」、妻は「3000円のホテルランチ」。稲盛哲学なら妻に対し、この“格差問題”をどう問うだろうか。

【ヒント】「俺は牛丼なのに、何でおまえはホテルでランチなんだ」と、直に文句をぶつければ、解決に至らないのは想像がつく。「だったら、あなたもホテルで食べればいいでしょ」と切り返されようものなら、「昼飯に3000円も使ったら小遣いがなくなる」と、惨めな立場へと逆転し、「小遣いを増やしたいなら、もっと給料を持ってきてよ」と追い打ちをかけられる。賢明な策は、面と向かっては文句をいわないことだ。では、どうするか。稲盛流の「真の解決法」を提示してもらおう。

FP 佐々木昭人氏・伊藤正孝氏の回答

A. 佐々木昭人氏も顧客から、「妻の金遣いの荒さ」について相談を受けることがあるという。

「相談というより、半ば愚痴の感じですね。自分は500円のランチなのに、奥さんは豪華なものを食べているとか。そんなときは、こうお話しします。“奥さんはあなたを映す鏡ですよ”。奥さんの金遣いの荒さは、奥さんだけに原因があるとは限りません。本人も、夜はホステスがいるような高いお店で飲食をしていたりする。それが鏡に映って、奥さんに反映されている。でも、本人は奥さんの行動しか、目に入っていないかもしれないからです」

人は自分にとって都合のいいことしか見ようとしない。これは心理学で「確証バイアス」と呼ばれる傾向だ。「自分は節約をするが、妻は金遣いが荒い」という先入観があり、それに基づいて相手の行動を観察し、自分にとって都合のいい情報だけを集めて、先入観を強めていく。妻はほかの面では節約していて、自分も夜の酒席などの支出は少なくないかもしれない。ところが、固定観念に合致する行動だけが認識され、「自分は出費を抑えているのに、妻は浪費している」と思い込んでいく。

「そこで、私がアドバイスするのは、“もう一度、自分を見つめ直し、もし思い当たるなら、自分が変わったほうがいいのではないですか”ということです。過去と他人は変えることができなくても、未来と自分は変えられるからです。伴侶ももとは他人です。そのとき、心の持ちようとして大切なことも稲盛哲学は教えています。“常に謙虚であらねばならない”“感謝の気持ちを持つ”。謙虚に内省し、妻への感謝の気持ちを持てば、夫を映す鏡である妻との間で意識が共有され、妻は同じことを夫に返してくれるはずです」