「左遷」意識を生む「自己評価3割増し」社員

「左遷」は、「同期入社」と並んで、経営学やビジネス関係の書籍では言及されない概念である。私も初めは、「左遷と言えば、なぜ皆が菅原道真を思い浮かべるのか?」といった程度のことしか頭に浮かばなかった。

ところが、左遷の用例を調べ、日本企業や外資系企業の人事担当者、キャリア官僚の元人事課長にも取材を行うと、左遷を通して組織の論理が浮かび上がってきた。また多くの会社員は左遷に遭遇して悔しかった思い出を語ってくれた。

人事コンサルタント 楠木新氏

左遷は、組織と社員の接点に位置するものだ。『左遷論』(中公新書)は、組織側の論理と、社員が左遷に対してどう対応するかを書いている。この2つの絡み合いが本書のポイントである。

人事部内では、左遷は建前上存在していない。「適材適所」が基本だからだ。一方で、社員はよくある出来事だと思っている。このギャップは、異動の意図や理由を社員にきちんと説明しないことに起因している。

また社員側が自らを高く評価していることも関係している。かつて私は支社内で大幅な人事異動を行った。業務に支障はなかったのに、社員の7~8割が不満を持っていた。納得がいかなかったので、対象者1人1人に改めて話を聞いた。そこで分かったのは、各社員は自分のことを3割程度高く評価していたことだった。会社員は「上司が自分を正当に評価してくれていない」とよくぼやく。その心情には、この3割増しの原則が隠れていることが多い。

組織偏重の考え方も左遷を後押ししている。組織図の上では横並びの部や課であっても、組織パワーや位置づけに差異がある。同じ本店の課長職でもポストの持つ力やその後の昇進可能性に格差がある。仕事内容よりも、どの職場で働いているか、どのポストに就いているかに重点がある。このため降格ではなく、給与も下がらないのに左遷だと受け取るケースも少なくない。