連載「為末大の相談室」の総まとめとして、ベストセラー『ない仕事の作り方』(文藝春秋刊)の著者、みうらじゅんさんとの対談をお送りしています。「陽気な引きこもり」だったみうらじゅん氏と「体育会系読書部」を自任する為末大氏。小学校の頃出会っていたらまったく接点がなかったであろうお二人は意外にも意気投合。プロとは何か、長続きする秘訣とは何か、肩書とは何か、超人と変態の違いは……といった「根源的」な問題に、ゆるく、深く迫ります第1回第2回のつづきです)

【みうら】スポーツってやたら「感動」にもっていく感じもちょっとずるいなと思ってるんですよね。僕らからすれば。

【為末】大部分は感動ですからね。スポーツ選手の引退後ってちょうどいい塩梅がないんですよ。ずっと「感動の人」であり続けながら国民栄誉賞的な人生を生きていくか、テレビ番組で思いきり笑いの世界に行くかっていう両極になりがちです。その中間のようないい感じの道があればいいんですけどね。

【みうら】昔なら野球をやめた人は「スポーツ用品店をやる」か、エリートなら「解説者」、超エリートなら「コーチや監督」ですよね。

【為末】そんな感じですかね。スポーツ選手って基本的には引退するまでの人生において選択しないで来ている人が多いんですよね。引退したときにはじめて、「これからどうやって生きていこうか」と考える。だからとりあえずは目の前に見えている人を参考にするしかないんです。しかも各競技ですでに方向性は大体決まっていて、ラグビーだと金融、商社、陸上だと先生か研究者……みたいな世界です。みうらさんのように「ない仕事を作る」ケースが、スポーツの世界はおそらく極めて少ないんです。

【みうら】考える時間はあるじゃないですか。特に長距離なんて走りながらでもいろいろ考えられるでしょう。移動の時間もあるし。そういうときいったい何を考えてるんですか? アスリートは。

【為末】しんどいな……とか(笑)スポーツ選手って、特徴として先をあんまり考えないですね。「今日のことを考える」という感じです。つらいこととか苦しいことは、そのほうが耐えられるのかもしれない。「とりあえず今日を乗り切ろう」と。

【みうら】たしかに「これがあと30年続く」と思うと、今直面している苦労が耐え難くなりますよね。

【為末】目先のことに集中しないと結果も出ないですしね。そういう、何かに夢中な状態の人を見ると人は感動するのかもしれません。だから選手がオリンピックの直前に「ちょっと会計士のテストがあるので練習休みます」とか言ったりするのはやっぱり許されないですよね。

【みうら】なんかイメージが違いますよね。

【為末】「ちゃんと競技に没頭しろ」という感じになるでしょう。引退の直前まではそれしかないことをみんなから望まれているのに、引退したらまったく違う人生を生きていくことを余儀なくされるんですよ。コーチからも「今日までありがとうな。明日から、お前の人生がんばれよ」なんて言われて、一歩踏みだすと誰もいなくなる。野球なんかはまさに象徴的かもしれないですね。