「出世する人の正念場の行動パターンは?」の質問に対して、僕の答えはたった一つ。「どんな場合も自らが正しいと信じた意見を表明し、それが誤りだった場合は、直ちにハッキリ謝り、進んで責任を取ること」だ。僕のこの意見に対しては、「主に大学の世界で生きてきた人だから……」という冷めた批判も十分覚悟している。しかしその方々に申し上げたい。「僕が推察する限り、日本の大学の世界の慣習も社会的雰囲気も一般に、産業界に比べれば遥かに不条理かつ陰湿に思われる。そのため僕はこれまで、とくに若い頃には、どれほど不愉快な目に遭い、不条理な扱いを受けたものか」と。

財団法人日本総合研究所会長 野田一夫氏

しかし、そのたびに僕には少数ながら頼もしい味方が必ず現れ、彼らは各界の素晴らしい友人・知人を進んで僕に紹介してくれた。そのお陰で、僕の交際範囲は年をとるとともに急速に広がっていった。年老いても思いがけなくこうした充実した人生を送れたのは、考えてみれば、子供の頃から尊敬する父親から“人間としての基本的生き様”を徹底的に叩き込まれてきたからだ。

そんな僕の事務所には、昔から大勢の年若い友人たちが遊びにくる。ある時期には、創業から間もないソフトバンクの孫正義君やエイチ・アイ・エスの澤田秀雄君、パソナグループの南部靖之君らが集っては、それぞれに大きな夢を語っていた。彼らはいまや、大成功を収めたカリスマ経営者であり、「出世した人」の最たるものだ。とはいえ当時は、どの会社も社員数人のレベルにすぎず、先の成功など見通せる状況にはなかった。それまでにもそれ以後も、挫折や苦労は絶えなかったはずだ。たとえば孫君は、よく知られるように在日韓国人として、若い頃はたいへんな苦労をしたという。その彼がアメリカの大学を卒業してから、わざわざ日本へ戻り、日本で起業した。なぜシリコンバレーではなく日本なのかと問うと、彼は目をキラキラさせて「僕は日本が好きですから」と言うのである。