いまやツイッターのフォロワー数36万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル21■虚言癖のある人と一緒に働いています
私の職場にいわゆる虚言癖のある人がいます。30歳手前の女性ですが、仕事の進捗報告や関係者への連絡など、とにかく虚実ないまぜで、周囲も困り果てています。同僚への陰口がひどい一方、権力がある人には媚びる、いわゆるサイコパスにも少し見えます。彼女の上司はいつも最後は困って他部署に異動させますが、周りの同僚は彼女が異動するまで疲弊します。無理に退職させると面倒なことになりそうなので、上の人たちはたらい回しにしていますが、不幸にも一緒に働くことになってしまった人は皆一様にノイローゼ気味です。こんな状況、どう切り抜ければ良いでしょうか?(女性・会社員、30歳)

これは、困った人の存在にみんな気づいていているけれども指摘しにくい空気があって、なんとなく放置してきてしまったという問題ですね。

今回もいきなり体育会系の話で恐縮ですが、体育会の現場では、言動のおかしな人間がいると早い段階で先輩が詰めるんです。「お前が言ってること、なんか違うよね」とかストレートに言います。あごがしゃくれてたら「しゃくれ」がそのままあだ名になるような、よくいえばざっくばらん、悪く言えばデリカシーのない世界です。でも、気づいているけど触れにくいものをあえてドンと表に出すことで、かえってもやもやしたものがなくなるという作用もあるんです。虚言癖の人に「なんか妄想入ってない?」と突っ込んでみるというのはどうでしょうか。

ただ、この方法が成功するにはひとつ条件があります。それは「早めにやる」ということです。今まで周囲がなんとなく触らないようにしてきたのであれば、突然それを指摘するとおかしな雰囲気になってしまうリスクもあります。そもそもこの問題は、周囲の慮りや遠慮がこの人を増長させてしまった可能性が大きいと思います。見て見ぬふりを続けていると、「王様は裸だ」というひと言で解決するような話が高度な神経戦のようにまでなってしまうことがあります。

こういう困った人をたらい回しにするというのはいかにも日本的ですが、ここまで放置してしまった以上、根本的な解決というのは難しそうです。虚言癖がある一方で「権力がある人には媚びる」というのは、状況を見て行動しているということですよね。頭は悪くない人なのでしょう。それだけに、その人の話の整合性に切り込むとか、虚言を証明して白黒はっきりさせるという正面からのアプローチは蟻地獄的なものになっていく可能性が高い。泥沼的にやり合うのではなく、この人との付き合い方について、自分のなかでルールを決めるというのが大事な気がします。