稲盛和夫がトップに就任して丸3年(2013年時点)がたった。今や世界有数の利益率を誇るJALとはいえ、意識改革が始まった「最初の半年間」は連日、稲盛の叱責が飛んだという。なぜ怒られたのか。役員と各部門の代表者が振り返る。

※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/17255)

≪取材に協力いただいた皆さん≫
・専務……大田嘉仁さん(京セラ出身) 社長補佐(意識改革担当)
・常務(1)……乘田俊明さん 常務・総務本部長
・広報……門間鉄也さん 広報部長メディアグループ長
・整備(1)……佐藤信博さん 専務・整備本部長、JALエンジニアリング社長
・経理……榎原伸一さん 経理部長
・常務(2)……菊山英樹さん 路線統括本部国内路線事業本部長
・意識……野村直史さん 意識改革・人づくり推進部長
・会長……大西賢さん 代表取締役会長
・総務……太田英明さん 総務部長
・準備……木藤祐一郎さん 前上場準備室長 現ジャルカード取締役
・機長……上谷宏さん 737運航乗員部長・機長
・社長……植木義晴さん 代表取締役社長
・CA(2)……小林千秋さん 客室本部客室マネジャー
・空港……渕千春さん JALスカイ 成田事業所 第二部コントロールグループ長
・人事……植田英嗣さん 人事部長

「JAL役員は地方大学出身の私を受け入れない」

【広報】稲盛さんは挨拶のなかで、JALの大きな経営の目的のひとつは「全社員の物心両面の幸福を追求することにある」という理念を述べましたが、このことにも当初反発がありましたね。

【専務(京セラ)】そうですね。稲盛さんが就任挨拶した日の夕方のことでした。ある役員が私のところに来て言いました。「全社員の物心両面の幸福を追求する、なんて言ったら、今の状況で社会的に受け入れられるわけがない。社内にも反発が広がります」。私は稲盛さんの理念に基づき、再建のためには社員の幸せを考える経営が必要だと説明しましたが、その役員は「あんたじゃ埒が明かない」と稲盛さんに直接「撤回してください」と詰め寄ったんです。

【広報】「利益追求」という理念にも役員から異論反論が相次ぎました。

座談会に臨むJALの役員ら。2時間あまりにわたり、かつて稲盛と役員との間にあった衝突や摩擦も語られた。

【専務(京セラ)】「収益性の高い企業を目指していこう」というくだりのことですね。これは本当に大きな議論になりました。異論の趣旨は、「JALは公共交通機関であり、利益が出るのなら廃止した赤字路線を復活させるべき。よって高収益企業を目指そうという経営方針は間違っている」ということでした。稲盛さんはもちろん公共交通機関としての務めを軽視していません。ただ「収益が上がらないと安全への投資もできない」のに加え、「収益が上がらなかったら社員の幸福も追求できない。社員が安心して働けない」ことのデメリットを懸念していました。ところが役員は「絶対違う、利益追求は正しくない」と収まる気配はなかったのです。