「独自色を鮮明に打ち出す」ことにこだわる

出版不況が言われて久しい。ただでさえ本は売れないのに、大型書店やネット書店の増加で、中小規模の書店はますます経営が厳しくなっている。実際、町から本屋がどんどん姿を消している。でも、がんばっている書店もある。その一つ、岩手県盛岡市の老舗さわや書店の取り組みを紹介したのが本書だ。

『まちの本屋』田口幹人著 ポプラ社

舞台は支店のフェザン店。JR盛岡駅ビル内にある中規模店だ。地の利はいい。ビジネスマンや学生、旅行者、買い物客など多くの人が行きかう。売れ筋の本を並べ、スピーディーに回転させていけば、それなりに商売はうまくいくだろう。しかし、著者である店長はそれはやらない。「独自色を鮮明に打ち出す」ことにこだわる。

本屋はたくさんある。盛岡市内にも大型店が複数ある。だから、同じ本を同じように置いていたのでは勝ち目はない。「大事なことは、すでに売れている本を仕入れることではなくて、売れる本を自分たちでどうつくっていくか」だと著者は語る。店長はじめ店員がこれこそはと思った本を、タイミングを見計らって展開する。それが店内を彩る手書きのPOPやパネルとなって現れる。そうした仕掛けで、店独自のベストセラーを次々と生み出している。

しかし、POPは演出の一つにすぎない。大事なのは、本とお客が出合うきっかけをいかにつくるかだという。本屋を「耕す」と著者は表現する。それはお客とのコミュニケーションを通じた信頼関係の構築であったり、本の棚を常に手を加えて変化をもたせることだったり。

そうして日頃から丁寧に店を耕しているからこそ、仕掛けた本に客も反応するし、POPも生きる。だから、同店で売れた本を同じようにPOPをつけて他店がマネしたところで、必ずしもうまくいくとは限らない。だって店によって耕し方は違うわけだし、客層が異なるのだから。