自宅で看るか、施設ならどこに頼るか。介護パターンの選び方によって、家族のお金と心の負担に大差がつく。実例を通して「わが家のベスト」な選択を考えよう。

同居している家族が要介護状態になったとき、まず家族が考えることは「自分たちでなんとかしよう」ということである。当たり前と言えば当たり前の反応だが、こうした頑張りがかえって裏目に出てしまうケースが多いという。

【ケース1】要介護5の母親と暮らす長女が介護不能に

82歳になる母親は、70代の後半から寝たきり状態になっている。父親はすでに他界していたため、同居していた長女(59歳)が介護をすることになった。長女は「自分の家族は自分で面倒を見るべきだ」という意識が非常に強かったため、介護保険サービスは週1回の訪問入浴サービスしか利用していなかった。

長女自身、年を重ねるごとに体力が低下していくのを感じてはいたが、家の中に他人が入り込んでくるのが嫌だったので、無理をして母親の介護を続けていた。

そんなある日、母親のおむつを交換するために前かがみになって母親の体位を変えようとした瞬間、腰に激痛が走った。ギックリ腰になってしまったのである。数日間は、長女自身が動けない。夫は会社勤めをしている。介護は1日たりとも休むことができない……。

長女は仕方なく、1日3回の訪問介護サービス受けることにし、排泄介助と昼食の介助などをホームヘルパーに任せることにしたのである。

その結果、自身の負担だけでなく、家族全体の負担が劇的に軽減することになった。長女が母親にかかり切りだった分、夫や子供たちが家事を分担していたのだ。

また、定期的におむつ交換をしなくてもよくなったため、家事やテレビを中断することが少なくなって、精神的にもかなりゆとりが生まれるようになった。

このケースで増えた介護費用は1日3回(合計2時間)の訪問介護の利用料金で、1日当たり約1100円(東京23区、自己負担1割の場合)。訪問入浴を含めた月額費用の合計は約3万8000円である。

なぜ、同居している家族が介護保険サービスの利用を躊躇しがちかというと、必ずしも「自分たちで面倒を見るべきだ」という意識のせいばかりではないと訪問介護サービスの専門業者、ケアリッツ・アンド・パートナーズの宮本剛宏社長は言う。

「1番多いのは、介護費用の実態をご存じないということです。ケース1でおわかりのように1日3回の排泄介助サービスを受けても、1日当たり1000円程度で済んでしまうのです。しかし、多くの人がそんなに安くやってもらえるとは思っていないのが実情です」

もうひとつの原因は、家族が介護したほうが被介護者にとって快適であるという思い込みだ。

「特に娘さんが同居している場合、ヘルパーのやり方に対して、『私のやり方と違う』という印象をお持ちになる場合が多いですね。それでヘルパーさんと揉めてしまって、結局、自分で介護をすることになってしまうのです。しかし、ヘルパーは訓練を受けたプロです。多少やり方が違っても、ヘルパーが誤ったやり方をすることはまずありません」