いまやツイッターのフォロワー数29万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル14■自信過剰の息子のことが心配です
息子のことで相談です。息子は小さい頃から信じられないくらいの自信過剰です。そこそこの学力と運動神経を持っているので、努力しなくても平均よりちょっと上くらいでいられるのですが、その程度でどこからその自信が湧いてくるのだろうと不思議に思うほどです。「先生など目上の人にへつらうことなく、友達を大切にする」など良い面も持ち合わせています。けれども私への態度がどうも解せません。暴力こそ振るわないものの、私に対してはいつも乱暴な態度です。なのに、夜は私と一緒に寝るのです。高校1年生にもなって! 私はシングルマザーなので、男の子のことがよく分かりません。大学生の娘もいますが、あまりに違うので理解に苦しみます。社会人になって「自信過剰な人」は、嫌われる傾向にあるようにも思います。本人は職人を目指していますが、それこそそういう世界では一人前になるまでには理不尽なことも言われるだろうととても心配です。このままで大丈夫でしょうか。(女性・会社員・47歳)

本当に自信のある人は他者への依存心が薄いと思います。人の目に「自信過剰」と映る人は、実は自信のないことの裏返しなのではないでしょうか。この息子さんが、お母さんに乱暴に振るまう一方で甘えてくるという態度は、本当のところ彼の不安定さから来ているのではないかなと思います。DVに走る男性の本を読んだりすると、脅しと懐柔の双方で相手をコントロールしようとする欲求があるみたいですね。この息子さんに限らず、自分のことを振り返ってみても、男性は20代半ばくらいまではそういう不安定さがあるような気もします。ほとんどの人は成長するにつれてその不安定さが健全な向上心や競争心にかわっていくわけですが。

でも実際、この息子さんはお母さんが思われるほど問題があるんでしょうか。お母さんのほうにも依存心があるような気もします。何となくですけれど、息子さんはたぶん大丈夫です。これくらいの年齢の男子はとにかくアンバランスでいろいろどうしようもないものだけれど、年齢を重ねれば挫折も経験してそれなりに大人になっていくものです。お母さんはそうなる前に、こんな性格だったら「理不尽なことも言われるだろう」と心配されていますが、その心配はしなくてもいいと思います。むしろそうやっていろいろ揉まれていくことで成長するでしょう。

一方で、お母さんには、息子がそうやって揉まれて苦しい思いをすることをちゃんと眺めている努力が求められると思います。もしこれがすごく謙虚で、自分のことは全部自分でやり、お母さんの手を一切煩わせない、できた息子さんだったらお母さんはむしろさびしく感じるんじゃないでしょうか。お母さんの目には息子さんが5歳ぐらいの時期か変わってなくて、体が大きくなったから粗暴に見えているだけのようにも思います。そして本心としては「そのままでいてほしい」と思っている……。

人生のこういうやりとりのひとつひとつが即興劇のようだなと僕は思うことがあります。即興劇というのは打合せや台本などなしで、本番が始まるお芝居のことを言います。もちろん役柄も決まっていません。即興劇では「自分の演じたい役柄を選んで演じる」のではなく、相手の出方に応じて、自分の身の振り方を決めなければなりません。親子関係もまた即興劇のようなものだと思います。お母さんは最近息子さんがそれまで演じてきた「幼い男の子」とは別の役を演じはじめたことに戸惑っておられるかもしれませんが、ご自身もそろそろ別の役を演じるときに来ているのかもしれません。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp
(撮影=鈴木愛子)
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