子供は親の価値観を通して世の中を見る

ある私立中学校の教員は、ため息混じりに教えてくれた。

「入学するなり、本校に対する不満ばかり言う保護者がいた。どうもうちが第1志望ではなかったらしい。親がそうなら子もそうなる。親子で散々本校の悪口を言った挙げ句、5月には地元の公立中学に転校した」

親が悪口を言う学校に通っている子どもの心中を察するに、こちらまでつらくなる。第1志望不合格の胸の痛みを紛らわすために、親と一緒になってせっかく合格した学校を否定したのではないか。転校すればその傷は癒えるのだろうか。きっと違う。その親は、子どもの気持ちを少しでも考えたのだろうか。

これが「第2志望では納得できないという病」である。

ある中堅私立中学校の教員が明かす。

「正直に言って、うちの学校を第1志望と考えて入学してきてくれる生徒は少ない。他校に不合格になったうえで、うちの学校を選んでくれたケースが多い。特に、本人以上に保護者が中学受験の結果を引きずっている場合、子どもの自己肯定感は著しく低い状態になる。われわれ教員が最初にすべきことは、彼らの自己肯定感を引き上げること。『いい学校に入って良かった』と思ってもらうこと。中1の1学期はそのために使う」

思春期前のこの時期には、子どもは自分の価値観よりも親の価値観を通して世の中を見ている。それが絶対的な価値であると信じて疑っていない。子ども自身の価値観が確立する思春期以降であれば、子ども自らが気持ちを切り替えて新しいスタートを切ることが可能だろうが、12歳にはまだそれができない。自分の努力の結果が、親を落胆させるものだったとしたら、子どもの自己肯定感は下がる。逆に言えば、親が、子の努力を評価し、どんな結果であろうとたたえることができれば、子どもの自己肯定感の低下は阻止できる。

結果がどうであれ、中学受験という経験を「つらかったけれど良い経験」として心に刻むか、「つらいだけの残酷な経験」として心に刻むかは、親の心構え次第なのである。