社長自ら社員の言葉に耳を傾ける

社長には2つの大きな役割があります。1つは戦略を立案して決断すること。もう1つが戦略を社員に伝えることです。いずれにしても社員とのコミュニケーションが重要です。

戦略といっても高度成長期は、それほど難しくありませんでした。経済が右肩上がりで成長して需要が伸びているため、どんな戦略でもそれなりにいい結果に結びついたからです。ところが、現在のように市場を取り巻く環境が複雑になると、戦略いかんでその会社の命運が決定されるといっても過言ではありません。

JT社長 小泉光臣氏

では、どうすれば会社にとって最も望ましい戦略を見つけることができるのか。重要なのは材料となる情報です。しかし、社長のところに日々集まってくる情報だけでは、十分とはいえません。市場の変化の兆し、まだ顕在化していない社内の課題など、本当に必要な情報は、社長へのレポートにまとめる時点でかなり落とされてしまっているからです。

それらを補うには、自ら社員の言葉に耳を傾けるしかありません。私が時間を見つけては現場に顔を出すのはそのためです。

マイルドセブンの名称をメビウスに変更する際、最終的な決め手となったのも、実は現場からの声でした。名称変更の最大の理由は、「マイルド」という言葉が、欧州の表示規制に抵触することを避けるためです。ただし、国内シェアの半分を占めるドル箱商品の名前を変えた場合、社員の士気が下がるのではないかという懸念もありました。

そこで、名称変更のプロジェクトが進んでいることは秘密のまま、現場を訪れるたびに「マイルドセブンはどうだ」とそれとなく聞いて回ったのです。すると、みな最初は「安定しています」「お得意さまの安心感も高いです」と答えるのですが、同時に「ワクワク感がない」「おもしろみがない」というニュアンスも、言葉の端々から伝わってきたのです。

まだ数字に表れていないが、マイルドセブンは衰退期の入り口に差し掛かっている……。ブランド活性化のためにも名称変更は必要だと、現場の声が背中を押してくれたのです。