社会派ドラマのノベライズ

多くのビジネスマン諸兄にとって、企業のリスクマネジメントは他山の石ではない。個人の単純ミスで大型契約が目の前からこぼれ落ちたり、ちょっとした酒の席での“ここだけの話”が重大な情報漏えいに繋がることさえある。自分に責任はなくても、知らぬ間に組織ぐるみで隠ぺい工作を図っていたり、はたまた買収の危機に晒されたりすることだってある。その時、組織人としてどう処するのか、また責任のある立場の場合、どう対処していくのか。日々のニュースを見て、自分の会社でなくて良かった、などとノー天気なことを言っていられる時代はとうの昔の話だ。

『リスクの神様(上下)』百瀬しのぶ著 小学館文庫

そんな企業のリスクマネジメントをテーマに扱ったのが、『リスクの神様(上下)』(小学館文庫)だ。ご存じの方も多いと思うが、先の夏クール(7-9月期)にフジテレビでオンエアされていたドラマのノベライズである。

平均視聴率14.47%で安定度十分だった池井戸潤原作(『不祥事』『銀行総務特命』など)の「花咲舞が黙っていない」(日テレ)の真裏で放送された「リスクの神様」は平均視聴率5.09%で、視聴率競争の話になれば敗北を喫したと言わざるを得ないが、本格的社会派ドラマとして十分見応えがあった。

アメリカで“リスクの神様”と呼ばれていた伝説の危機管理専門家・西行寺智(堤真一)が、日本最大の商社・サンライズ物産に新設された「危機対策室」に室長として迎え入れられ、数々のトラブルを解決していくという内容。また、ヒロインの神狩かおり(戸田恵梨香)は、サンライズ物産の女性総合職で、次世代型バッテリーの商品開発担当役員に抜擢されたが、リコール問題に巻き込まれて西行寺の下で働くこととなる。

偽造、隠ぺい、粉飾決算、個人情報流出、不正利益供与など、相次ぐ不祥事やトラブルが企業や個人を襲う。次々巻き起こる事件を解決していく社会派ドラマだ。

怪優、堤真一の口数少ないながらも深みのある演技と、ストレートに若さをぶつける戸田恵梨香のシャープな芝居は新たな名コンビ誕生を感じさせるもの。

さらに、脇を固めるのは森田剛、古田新太、志賀廣太郎、吉田剛太郎、小日向文世、平幹二朗、田中泯など、硬派ドラマに相応しい面々だ。