現代の文明においてもっとも大切なことの1つは、発明や発見、そしてイノベーションであろう。

従来の常識をくつがえすような新しいものの見方、考え方、今までのやり方を破壊し、置き換えるような新技術。そのようなものがあってこそ、経済も成長し、フロンティアを開き、エネルギーや環境などの問題にも対応できる。

求められているのは、既成の概念にとらわれない「天才」である。「天才」とは何であるか、その定義は確かに難しい。一方で、人類の歴史が、その時々の常識にとらわれずに新しい道を切り開いてきた天才たちによって形作られてきたことも事実である。

ところで、いかに天才を生み出すか、という方法論になると、難しい。天才は「歩留まり」が悪いし、予想ができない形で生まれるからだ。

今や、GPS(全地球測位網)にも使われ、現代文明を支えている相対性理論を生み出したアインシュタインは、当時のドイツの管理教育に嫌気が差してドロップアウトした。では、天才を生み出すには、管理教育をドロップアウトするのを待っていればいいのかといえば、そうでもないだろう。

頭の全体的な良さの1つの目安である「知能指数」については、遺伝的な影響はほぼ50%くらいだろうと言われている。身長の場合、遺伝的影響は60%から80%程度というデータがある。残りは、生まれた後の環境や、育ち方によって決まる。

知能指数や身長についてはある程度遺伝の影響があることになるが、天才についてはどうか。さまざまな事例を見ると、「天才は遺伝しない」と言ってよいのではないか。

アインシュタインの息子のハンスは工学者になった。学生たちに愛されたらしい。写真を見ると、とても良い人柄が伝わってくる。それでも、父親のような偉業を成し遂げることはできなかった。