工場勤務から始まったサラリーマン人生

私が社長に就任してからの27年間、セーレンは従来の委託賃加工業からの脱皮を目指し、企業改革に取り組んできました。その原動力となったのが、「5ゲン主義」をはじめ、「見つけましたね運動」や「セーレン 7つの行動指針」など現場重視の考え方です。なかでも5ゲン主義は、「現場」「現物」「現実」の三現主義に「原理」「原則」を加えたもので、「現場で原理原則どおりに仕事がなされてはじめて、会社に利益をもたらす付加価値を生み出すことができる」という仕事の本質にかかわるものです(連載第2回 http://president.jp/articles/-/14461 参照)。

こうした現場重視の考え方は、入社直後の5年半の工場勤務経験から生まれたものです。当時、大卒の幹部候補生は本社勤務と決まっていましたから、入社早々の工場配属は左遷も同然でした。同僚からは「これでお前のサラリーマン人生は終わった」と同情されたものですが、この5年半の現場経験こそが、いまの私のすべてをつくったと言っても過言ではありません。

左遷の理由は、過去の連載でもお話ししたとおり、当時の役員の逆鱗に触れたからです。新入社員研修発表の場で、私は身のほど知らずにも、企業改革を提案しました。自社で商品を開発・販売することなく、委託賃加工業に甘んじていたセーレンの企業体質に疑問を呈し、「この会社は頭がなくて手と足だけの会社」「経営学的には企業ではない」「このままでは企業としての将来はない」とぶちまけたのです。委託賃加工業とはいえ、それで順調に業績を伸ばしてきた会社にとって、私の発言は非常識以外の何物でもありませんでした。役員が激怒するのも当然です。

現場から見たセーレンの経営は、「これはおかしい」と矛盾を感じることばかりでした。いちばんの問題は、管理者が管理者の仕事をしていないことです。管理者の仕事とは、現場の担当者がやるべきことを正しくできるよう、指導したり環境を整えたり、管理監督することですが、実際には逆のことが行われていました。

生産管理とは名ばかりで、とにかく取引先から委託された仕事をこなすために、社員を追い込んで仕事させていたのです。社員にとっては、かえって仕事がやりにくい状況でした。現場で不良品が発生しても、管理者が問題解決に動くことは一切なく、現場でのミスはすべて担当者の責任とされていました。