6月末、“中小企業のオヤジ”を自称するカリスマ経営者、スズキの鈴木修会長が、兼務していた社長のポストを長男で副社長の俊宏氏に譲った。細い目に垂れ下がった太い眉毛。毛の色は白と黒の違いはあっても顔つきは瓜二つの正真正銘の親子だが、性格や経営手法は似ても似つかない。新社長の俊宏氏は「中小企業のオヤジに依存した体質の脱却は1人では難しい。これからは社員全員が自主的に行動する『チームスズキ』となって進めたい」と抱負を述べた。部下の意見をくみ上げながら組織的に成長力を引き出す民主的な意思決定を目指す。強烈なリーダーシップで40年近くも経営の実権を握り、売上高3兆円超の「偉大なる中小企業」に育て上げた父親の「ワンマン経営」とは一線を画す。

スズキ社長 鈴木俊宏(AFLO=写真)

趣味嗜好や性格も正反対。修氏は地元浜松のホテル内にホームバーを開設して世界の洋酒を集めて嗜むほどだが、俊宏氏はアルコール類が大の苦手。また、85歳の修氏はフットワークのよさとユーモアを交えながら相手を引き込む天才的な話術を持つが、俊宏氏は言葉を慎重に選びながら話す実直な学究肌タイプだ。

ただ、会長兼CEO(最高経営責任者)の肩書を残して引き続き君臨する修氏は「あまり口出ししないと認知症になってしまう」とジョークを飛ばしながらも、会社の方針決定や懸案の独フォルクスワーゲン問題の後始末など対外的な役割は「私がする」と言い切り“仮免中”のわが子を見守る姿勢を貫く。俊宏氏の「自立」はまだ時間がかかりそうだ。

スズキ社長 鈴木俊宏(すずき・としひろ)
1959年、静岡県生まれ。83年東京理科大大学院修了。日本電装(現デンソー)を経て、94年スズキ入社。2003年取締役。11年副社長。15年6月社長就任。
(写真=AFLO)
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