秘書の心得として永田町によく流布している話があります。

親分である議員や、地元の顔役から、

「カラスは白いと思うのだが、君は何色だと思う」

と問われ、

「はい、私も白いと思います」

と答えるのでは物足りない。敏腕秘書なら、

「カラスは真っ白です」

と断言するのが正しい、というものです。

しかし、私に言わせれば、この答えとてまだまだ甘い。何がなんでも「白いカラス」を見つけ、「やはり先生の言うとおりだった」と世論に訴えてこそ、プロの仕事と言えるのではないでしょうか。

06年9月に出発した小泉純一郎総理(当時)が、51回目の、そして最後の外遊で、フィンランドのヘルシンキへ訪れたとき、「白いカラス」を私は目撃しました。そのときの模様は、小泉メールマガジンにも長勢甚遠官房副長官(当時)の言葉として収録されています。ちなみに私は黄身が黄色くないタマゴ、匂いのないドリアンも実際に食べたことがあります。ガーナでは、鶏が米粉を食べているため、黄身が白くなってしまうのだとか。ドリアンは品種改良なのだそうです。

もちろん、小泉元総理が「カラスは白い」などと言ったことはありません。むしろこのエピソードは、議員と秘書ではなく、陳情者と事務所の関係といえるでしょう。「白いカラスを見たい」というぐらい解決不能な陳情が、政治家事務所には舞い込んでくるものなのです。しかし、票をお金で買うことをしない事務所にとって、このような相談の解決こそが生き残りの術になっていきます。

ビジネスマンが海外旅行へ行く際、必ず持たなければならないもの、パスポート。出発の3日前に期限が切れていたことがわかってもあとの祭り。大事な商談ができなくなり、業績もますます悪化……ということは、誰もが恐れるところでしょう。だからこそ周到に用意しなければならないのですが、人間が過ちを犯すものであることもまた事実です。