もう一緒にいられない――互いにそう感じている夫婦は、確かにゴマンといる。ただ、衝動的にせよ、用意周到にせよ、別れて即“一人勝ち”できるほど、世の中簡単にはできていないようだ。

熟年離婚と介護は切り離せない

親の介護が離婚話に発展することはあるが、逆に、それが財産分与や住居に影響を与えることから離婚を思い留まるケースもある。

畠中遼子さん(42歳、仮名)は、証券会社に勤める夫(53歳)と都内マンションで二人暮らしの生活を始めて7年ほどになる。職業は女性誌の編集者。仕事柄、熟年間近の離婚についてこれまでにも何度か取材した経験があり、夫との年の差を思えば他人事とは思えないという。

※写真と本文は関係ありません。

「私は30代半ばの初婚だったんですが、取材で知り合った夫は再婚。で、かなりの財産持ち(笑)。3年くらい前に夫から、81歳と74歳になる田舎の義父母を呼び寄せて同居したいという話が出たんです。私の場合、打ち合わせも兼ねて夜は週に3回は神保町や新宿、赤坂のバーに寄って同業者や取材相手と飲みながら情報交換するのが日常ですから、介護や介助が必要な義父母の面倒はとても見切れない。それまでは『お手伝いさんを雇ってよ』と言って話をやり過ごしていたんですが、それも限界にきて、とうとう離婚話に発展したというわけです」(遼子さん)

今年で28歳になる夫の息子は今、有料老人ホームを手掛ける有名飲食チェーンに勤務。それが別居を望む遼子さんにとっては幸運だった。揉め始めた頃に介護についての相談に乗ってくれて、ホームへの入居がとんとん拍子に決まったからだという。

「結論からいえば、離婚はしませんでした。義父母に大きな財産はありませんから、私にとっては“同居すれば丸々残る夫の財産を取るか、ホームに出費して自由をとるか”と。この考え方、冷たいですか?(笑)。でも、年の離れたバツイチの夫と結婚して将来の生活設計を考える身としては仕方ありません。夫の息子が勧めた有料老人ホームの入居一時金が3000万円、食費その他で毎月計30万円。ちょっと贅沢でしょ? 私が専業主婦なら考えましたけど、お局化してはいても仕事が面白いので選択の余地はありませんでした。もし、次に離婚の危機が訪れて財産分与のことを考えなければならなくなったら後悔するかもしれませんけど(笑)」

有料老人ホームにかかる費用はピンキリだが、入居一時金は基本的に戻ってこない。遼子さんが夫と住む夫名義のマンションは時価評価額で約5000万円。ローンの残債はまだ3000万円ほど残っている。もし離婚でマンションを処分すれば、差額の2000万円とその他の蓄財が財産分与の対象になる。そのうち1000万円が分与されることになっても、その金は1~2年でなくなってしまう。

一方、離婚して夫からマンションを譲り受ければ、購入時と時価の差額が譲渡所得税の対象となる。これは譲渡する側の夫が払わねばならない。ただし彼女が住み続けることになれば、一定金額までは居住用として特別控除を受けられるため非課税になる。とはいえ、譲渡された側も不動産取得税や登録免許税の負担があり、以降の固定資産税もかかる。

熟年離婚を想定したとき、財産分与や住居、慰謝料などと親の介護の問題はなかなか切り離せないものだ。財産分与ひとつとっても、様々に事情が変われば試算も変わる。遼子さんの口からは11歳上の夫の介護を懸念する言葉は出なかったが、婚姻関係が続けば当然、これも婚費外の経費と負担を生むのだ。