モノが溢れる時代に、いかにして商品を売ればいいのか。スタバ元社長と、女性営業のカリスマが、秘伝の技を伝授する。

元スタバ社長 岩田流・話し方

日産自動車に入社して2年目のころ、上司から言われて元気づけられた言葉があります。

岩田松雄氏

「おまえが失敗しても日産はつぶれない。思い切りやってみろ」

この上司の言葉に後ろから支えられている安心感を覚えて、よし、頑張ろうと気合が入ったことを思い出します。

成果を出すマネジャーは、部下を萎縮させたり自由を奪うような話し方をしません。彼らが心がけているのは、部下がのびのびと動けるような話し方です。いま風の言い方でいえば、エンパワーメント。あれこれと指示せずに「きみに任せる」と伝え、部下のやる気を引き出します。

ただし、任せるといっても部下に丸投げするわけではありません。理念や方針、目的といった大きな方向性をきちんと共有したうえで、具体的なやり方を本人に任せます。

私が社長を務めていたスターバックスでは、お客様が来店されたときに「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」と声をかけます。「いらっしゃいませ」は売り手と買い手の関係で交わされる挨拶ですが、「こんにちは」は友達同士の挨拶。あえてフレンドリーな挨拶をするのは、お客様と心でつながり、活力を与えたいというスターバックスのミッションがあるからです。

このときパートナー(スタバではスタッフをそう呼びます)に教えるべきは、ミッションであり、挨拶の仕方ではありません。お客様とフレンドリーな関係を築けるなら、挨拶は「いらっしゃいませ」でも「今日は暑いですね」でもいい。必ずしも「こんにちは」という言い方にこだわる必要はないのです。

スタバは入店時にしっかりと理念教育をするので、パートナーはミッションが大事であることをよくわかっています。しかし、もしミッションではなく、形だけを教えていたらどうなるでしょうか。おそらくパートナーは何か押しつけられたように感じて、挨拶は心のこもらないものになるはずです。