通り過ぎる場所から、賑わいの拠点へ。「駅」の役割が大きく変化するなかで、「駅ナカ」にはどんな店を展開するべきか。鉄道マンたちが衝撃を受けた「近くて便利」という店づくりとは――。

京都駅の「伊勢丹」が駅ナカ開発の転換点

JR西日本の駅ナカ開発は、コンビニ事業のデイリーサービスネットのほかにも、ホテル、店舗、不動産などを各分野の子会社がそれぞれ担当している。この全体を取りまとめるJR西日本創造本部の副本部長・岩崎悟志さんは、岡山駅の事例を「セブン-イレブンの商品力と我々の駅ナカの流動性が最強に結びついた事例」と語る。その彼が大きな流れとして見据えているのが、「街における駅の拠点性が増してきている」という認識だ。

京都駅構内の「キヨスク」型

JR各社にとって、「駅ナカ」は今も昔も幅広い層の人々が流動する最大の経営資源である。よって彼らは駅の持つ「価値の最大化」に常に関心を払ってきたが、かつては必ずしも「駅」は街の中心ではなかった。鉄道はもともと蒸気機関車を走らせることを前提に整備された歴史を持つため、都市部の多くの駅は街の中心から少し離れた場所に位置しているからだ。

「駅が本来持っている拠点性がまずは地方都市を中心に再評価されてきている。国の人口が減少局面に入って地価が下がると、都市への回帰が起こるわけです。一方向に経済が拡大し、人が外へ外へと拡大していった時代に対して、いまはコンパクトシティが志向される時代。駅の機能が変わってきたのです」(岩崎さん)

JR西日本の「駅ナカ開発」の転換点となったのは、平安遷都1200年の記念事業として行われた京都駅の再開発だった。

工事期間2年半をかけたこの再開発の目玉は「ジェイアール京都伊勢丹」の開業。JR西日本が6割、三越伊勢丹ホールディングスが4割を出資する新会社を設立し、本格的な百貨店を駅直結で展開してこれまでの駅ナカのイメージを刷新した。開業以来、京都駅では乗降客数が増え、商業施設も持続的な成長を遂げていくことになる。

「鉄道というベーシックな商売と駅ナカ開発の融合。これは、私どもがこれまで体験したことのなかったものでした」と岩崎さんは話す。

「ここで重要なのは京都駅の拠点性が、開発によって高まったという認識を我々が得たこと。駅を拠点化していくことは地域活性化にもつながることが証明されたんです」

以後、JR西日本の駅ナカ開発は軌道に乗り、それは北陸新幹線開業を機に金沢駅や富山駅の開発までつながっていく。岡山駅もかつては地下街があるのみだったが、高架化とショッピングセンター「サンステーションテラス岡山」の整備によって、賑わいが生まれた駅の一つだった。