高齢化社会において、性欲ケアは死活問題

高齢化社会の日本は、65歳以上の老年人口が国立社会保障・人口問題研究所の推計では13年で3197.1万人となり、その後もしばらくは増え続けると予想される。総人口に占める老年人口の割合も10年の23.0%から13年には25.1%になり、4人に1人が老年になる。2035年には33.4%を占め、実に3人に1人が老年という超高齢化社会になる。

それだけにいずれは誰にでも訪れる熟年の恋愛やセックスは「年甲斐もなく」といった偏見で切り捨てられるものではない。年をとっても、異性に心がときめくと積極的に生きる意欲が湧き、生活にも張りが出る。それだけに高齢化社会では性的欲望をどうケアするかは重要な問題だ。その社会と人生の縮図といえるのが老人ホームである。

老人ホームで、女性スタッフが男性入居者から乳房やお尻を触られる。在宅ケアでも、要介護者が動かせないはずの手で女性ヘルパーの体を触ったり、家事援助で調理をする後ろから抱きついたりとトラブルも多い。

東京都内の特別養護老人ホームの施設長を長く務め、現在は神奈川県内にあるNPO法人「生き生き介護の会」理事長の米山淑子氏が、介護現場の長い経験から事例を語る。

「性に関して露骨なのは男性です。私が職員だった若いころ、入浴介護の際にストレッチャーに移動してもらうのに担当していた男性の頭の部分を抱えようとしたら、体を起こしてキスをされました。そのほかにも『一緒に寝ようよ』とか、介護職員を布団の中に引きずり込もうとすることはあります」

犯罪ではないかと思える行為もあったという。70代の男性が認知症の女性を立たせてベッドの柵に捕まらせ、おむつを下げていた。米山氏が叱ると、男性は逃げるために開けておいた窓から脱出したという。4人部屋の自分のベッドに女性を連れ込んでいる男性に、空いていた静養室の利用を提案したこともある。結局、男性は断ったが、別の施設では、恋愛関係になった入所者を介護職人がモーテルまで送り、後で迎えに行くことをしているところもあったという。

異性とのスキンシップや恋をする効用で、老人ホーム入所者の食事や着替え、移動、入浴など生活上不可欠な基本的な行動の「日常生活動作」(ADL)が向上するケースもある。

「屋上まで行くエレベーターを使ってデートをしていたカップルもいます。男性は60代、女性は70代。男性は脳梗塞で片半身麻痺で杖をつき、女性は杖をついてオムツをしていましたが、そのうち女性はオムツもとれ、すたすた歩けるようになりました」(米山氏)