プロデュースした人 西尾智浩(亀の子束子西尾商店社長)

「亀の子束子」が世に出たのは1907年。日本にちょうど西洋文化が入り込み、油を使った料理が増えてきた時期に重なります。今でこそ「たわし」といえば、亀の子束子をイメージする人がほとんどでしょう。本来、たわしは繊維を束ねた掃除道具の総称。亀の子束子が登場する以前、たわしといえば、藁や縄を束ねた掃除道具を指しました。それだけセンセーショナルなものだったのです。

初代は家事をする女性をターゲットに、女性の手にスッポリと馴染む形と大きさ、重さを決め、亀の子束子の原型を完成させました。ネーミングの由来は見た目の通り。たわしが水の中で浮いていた様子が、亀の甲羅に見えたことからでした。

発売から今まで製品の形や品質をほとんど変えることなく、愛され続けています。その理由は、最初から使用場面を決めて最適化した形にしなかったことにあるのかもしれません。台所以外にもベランダの手入れや風呂場の掃除など、さまざまな場面で使える。それだけではなく、台所で使わなくなったものをお風呂で、さらに古くなったものをベランダで……など、使用度に応じて暮らしの中を循環して使えるのも魅力かもしれません。

商品を広く手に取ってもらうためには、変えていく部分も必要です。今年5月には、コラムニストの石黒智子さんと共同開発した、モダンなキッチンに溶け込む「白いたわし」を発売しました。天然のサイザル麻とホワイトパームの2種があります。水をよく保持して乾きづらい素材なので、真ん中に穴を空けたベーグルのような形をしています。手がけたキッカケは、茶色の亀の子束子を見た石黒さんの「私ならキッチンに置きたくない」というひと言。今までならそういう意見に対し、伝統を守らなければと、頑なな姿勢を貫いていたので、このことは大きな一歩でした。