孫正義氏がこれまでに経験したタフな場面をケーススタディの形で完全再現。
あなたは正しい判断を下せるだろうか。

Q. 役所の規制が理不尽で新規参入できない

04年はソフトバンク史上屈指の慌ただしい年。顧客情報漏洩事件、日本テレコム買収、プロ野球球団買収、そして訴訟である。買収交渉していた平成電電から提訴(06年3月平成電電が敗訴)されただけでなく、携帯電話事業のスタートを画策する中、孫は監督官庁を訴える決断をした。そこで選択。A案は、不満を持ちつつも官庁に従うほうが最終的には得という判断。B案は、誰が敵だろうと“悪”は倒すのみ。
【A】規制に従う【B】監督官庁を相手に戦う
(正答率100%)
総務省への行政訴訟について、記者会見をする孫正義氏。

参入したいのに「大きな障壁」がドンと居座っている。「不公平」と戦うべきか、ルールを守っておとなしくしているか。

04年10月、ソフトバンクは総務省に対して訴訟すると宣言しました。携帯電話の割り当て方法が不公平で、既存企業の既得権益保護のため、新規参入をブロックしているように見えたからです。日本で監督官庁を訴えた企業はほとんどないのではないでしょうか。許認可をもらわなきゃならないわけですから普通喧嘩など仕掛けません。

でも、訴えるだけの理由があった。モバイルインターネット時代の到来を確信した僕たちは、00年頃からNTTドコモやKDDIのauと同じ周波数帯の800メガヘルツ帯での携帯電話事業参入を目指し、新規参入を総務省に申請していました。ところが監督官庁は参入歓迎のそぶりを見せつつ、申請を断り続ける。そこで総務省への行政提訴に踏み切ったのです。

04年9月には主要新聞に「いま声を上げなければ、この国の携帯電話料金はずっと高いままかもしれません」という全面意見広告を掲載しました。ソフトバンクの参入で、世界一高い日本の携帯電話料金が下がり、消費者の利益になる、と信じていたからです。

結果、一時的に総務省に出入り禁止になり、局長も会ってくれない。そんな状況が数年続きました(05年、周波数1.7ギガヘルツ帯での携帯電話事業の実験免許がソフトバンクに与えられた)。

総務省と対立していた頃、総務大臣室で、総務省幹部と激しくやりあいました。僕の主張を官僚たちはのらりくらりとかわす。大臣が「孫君の言うことはどうなんだ?」と聞くと、局長たちは「いい加減な説明をしている」と。これには僕もムカッときて官僚たちに「貴様ら許せん!」と机を叩いて抗議しました。最後に僕は言いました。

「大臣、これだけ言っても彼ら(官僚)は認めません。最後は総務省を訴えるしかない。それは、あなたを訴えることになるけど、かまいませんか?」

大臣は「仕方がない。法のもとに提訴することは許されておる」と。仁義を切って、訴訟の運びとなったのです。

そのときの総務大臣は、のちの総理大臣の麻生太郎。僕は麻生さんに個人的な恨みは何もない。そういう人を相手に訴訟を起こすことは胸が痛みましたが、不公平だと思うものに対しては断固戦わねばならないのです。