『年収は「住むところ」で決まる』エンリコ・モレッティ著(プレジデント社)

20世紀は「ものをつくる」時代でしたが、21世紀は「イノベーション」の時代であるといわれます。それを牽引するのは、いわゆるIT産業でしょう。

エンリコ・モレッティ著『年収は「住むところ」で決まる』でいわれている基本命題の一つは、「旧来の製造業都市の大卒者より、イノベーション都市の高卒者のほうが稼いでいる」というものです。衰退の途をたどる製造業都市と、これから伸びる可能性のあるイノベーション都市とに分化しつつある事態がアメリカ国内のデータを使って実証されていますが、そこから見えてくるのはIT産業のようなイノベーション産業は特定地域に集積する傾向があるということです。

では、日本ではどうなのでしょう。『年収は「住むところ」で決まる』の追試作業第3弾として、わが国におけるIT産業の地域分布の様相を観察してみようと思います。

総務省の『経済センサス』から、各産業の従事者数を市区町村別に知ることができます。住所ではなく、事業所の所在地に依拠した統計です。私は、全産業の従事者に占める、情報通信産業(以下、IT産業)従事者の比率を計算してみました。


図 情報通信産業の従事者比率マップ

地図は、1都3県の242市区町村のIT産業従事者率を地図にしたものです。首都圏のIT産業マップをご覧ください。

トップは東京の品川区の18.4%、2位は港区の17.9%、3位は江東区の15.6%となっています。これらの区では、5~7人に1人がIT産業従事者ということになりますが、こういう地域は数の上では少数派です。IT産業従事者率が10%を超える地域は、242市区町村のうち10しかありません。

地図の上では、マックスの階級を「3%以上」としていますが、ここまで下げても、該当する市区町村は多くないことが知られます(濃い青色)。また、高率地域が都内の都心部に集中していることにも注目。なるほど、IT産業の地域的集積の傾向がみられます。

これを、IT産業従事者の地域的偏りという点からもみてみましょう。図に掲載した上位5位の区のIT産業従事者は541899人であり、242市区町村全体の52.8%を占めます。首都圏全体のIT産業従事者の半分以上が、これらの都心の5区に集中していることになります。