大企業の最前線で活躍するエース社員たちの心を支え、成功に導いた本がある──。彼らのサクセスストーリーとそのバイブルを紹介しよう。

社長直轄事業でただ一人の専任

ローソン 吉澤 明男氏

目立ったヒット商品が少ない中、注目されているものがある。コンビニエンスストアが店頭で販売する淹れたてコーヒーだ。2013年上半期の日経MJのヒット商品番付にも「コンビニコーヒー」として選ばれた。大手全社が参入し、目標を超える売れ行きを見せている。

なかでも異彩を放つのが、ローソンの「マチカフェ」だ。11年1月に長野県で試験導入を始め、現在約4000店に展開する。長野を試験導入の地に選んだのは「セブン-イレブンの鈴木敏文会長のお膝元で、一番辛いエリアだから」。そこで成功を重ね、本格展開に踏み切った。販売数等は公表していないが、リピート購入率は40%で全商品中トップという。

ローソンでは、セルフ式ではなく接客販売方式を採用し、ブランド名にはあえて社名を入れず、レジの一角が小さなカフェになったような世界観をつくり出した。もう一つの特徴は幅広いラインアップ。ブレンドコーヒーだけでなく、カフェラテや抹茶ラテなども揃える。コンビニがこれまで取り込みに苦戦してきた女性客にも好評を博している。「マチカフェ」を統括するのは吉澤明男氏だ。

この社長直轄プロジェクトにたった一人の専任担当者として選ばれた。着任して3年弱、吉澤氏がバイブルにしていたのが人気漫画『ワンピース』。「漫画ですか……」と戸惑う編集部に対し、吉澤氏はかすかに声を荒らげた。

「『ワンピース』は名著ですよ。マネジメントのヒントが詰まっていると聞いて単行本を全巻買いし、71巻を一気に読みました。マチカフェの事業を始めたとき、私はまさに主人公のルフィみたいだったのです。海賊王を名乗っているのに最初は一人ぼっちで……」

これまで「新しい事業ばかりを任されてきた」という吉澤氏のキャリアは決して順風ではなかった。新卒で入社し、店舗と広告を連動させる「メディアミックスをやりたい」という吉澤氏を、上司は生意気だと一蹴。入社後は店長を2年間、店舗オーナーへの巡回指導を担うスーパーバイザーを5年間経験した。

この間に「リアルなお客様と店舗スタッフを想像できなければ、メディアミックスなど不可能」と悟る。理詰めで勝ち気な吉澤氏は数えきれないほどの失敗経験を経て、人を動かすためには「共感が何より大事」と知った。まさに『ワンピース』が説く「味方をつくるための技術」である。