「みんなの心がひとつになる場所をつくりたい」

『ディズニーを知ってディズニーを超える顧客満足入門』鎌田洋著(プレジデント社)

ディズニーシーのアトラクション「ヴェネツィアン・ゴンドラ」で、ゲスト(お客)同士で写真を撮り合う光景をよく見かけます。カップルや家族がお互いに撮ろうとしても、隣に座っていて近すぎるために引いた絵が撮れません。そこでゲストの多くは、向かいの人に声をかけて写真を撮ってもらいます。頼まれた人たちも同じ問題を抱えているので、「次は私たちを撮って」と写真を頼みます。そうやっていつのまにか写真大会が始まります。ゴンドラに乗るまでは、ゲストはお互いに知らない人同士です。ところが写真撮影をきっかけにコミュニケーションが生まれて、いつのまにか仲良くなってしまう。これはとても素敵なことだと思います。

さて、ゲスト同士が仲良くなる現象は偶然生まれたものでしょうか。答えは、ノーです。ディズニーはみんな仲良くなれる環境を意図的につくっています。ディズニーの創始者ウォルト・ディズニーは、次の言葉を残しています。

「科学技術が進めば進むほど、人々は孤独になり、分離する。
私は人々が互いに感動し、心がひとつになる場所を作りたいんだ」

みんなの心がひとつになる場所をつくりたい――。

ウォルトの「想い」は、各アトラクションに反映されています。東京ディズニーランドの「蒸気船マーク・トウェイン号」は航行中、「ウエスタンリバー鉄道」とすれ違います。一般的なテーマパークではスタッフがお客さんに手を振りますが、ディズニーではゲスト同士が手を振りあいます。たまたまそうなったわけではありません。みんなの心をひとつにしたいという想いが原点にあるからこそ、それがアトラクションの設計や演出に活かされて、ゲストが自然に手を振るようになるのです。

どうして、このような話をしたのか。それは、企業の「想い」が商品やサービスを決定づけ、最終的にCSに影響を及ぼすからです。企業の想いは、建物でいえば基礎にあたります。商品やサービスは、その上に乗っかる柱や梁に過ぎません。商品やサービスによって顧客が感動するのも、根底に企業の想いが存在しているからです。企業が大事にしている想いなしに、CSの向上はありえないのです。