共に長い歴史を持つコニカとミノルタが経営統合してから丸10年を経たこの4月、新たにトップに就任した山名昌衛新社長は、両社に脈々と受け継がれてきたよき文化を尊重しつつ、さらなる進化をめざすことを掲げている。統合会社が幾多の試練を乗り越えながら、融合、再構築から進化フェーズへとシフトアップする局面で理念はどのような位置づけにあるのか。今回は、理念経営を実践していく上で、このコニカミノルタの取り組みにどんなヒントがあるかを考えてみたい。(文中敬称略)

策定よりも浸透が難しい理念経営

山名昌衛(やまな・しょうえい)●コニカミノルタ社長。1954年、兵庫県生まれ。77年早稲田大学商学部卒業後、ミノルタカメラ(当時)入社。96年経営企画部長を経て2002年執行役員となる。コニカとの経営統合後は常務執行役、コニカミノルタビジネステクノロジーズ社長などを経て、14年4月より現職。  コニカミノルタ>> http://www.konicaminolta.jp/

経営理念とは、「経営の大きな方向性を決めるもの」という大括りな意味では、ビジョンや戦略と同義で使われることもあるが、より狭義には、「企業の存在意義を規定するもの」であり、ビジョンや戦略よりも上位に位置づけられる。したがって理念次第で戦略も、戦略を実行する社員の行動も変わる。

たとえばスターバックスの例で考えてみよう。彼らの理念は、「人々の心を豊かで活力あるものにする特別な第三の場所として、顧客とのつながりの瞬間にドラマやロマンスといった特別な体験を提供する」、すなわち「コーヒーを提供する」のではなく「特別な体験を提供する」ために存在しているのだとされている。彼らの戦い方は、安さで勝負するのではなく、コーヒー豆の品質はもちろん、味、香り、接客、雰囲気の総体で実現する居心地の良さで勝負している。従業員にもホスピタリティ溢れるサービスを実現する行動が求められる。理念が土台となって経営のあり方を規定し、競争力に結びついている理念経営の好例といえよう。

理念経営の巧拙を考える際、ともすると理念の内容や表現に目がいきがちだ。自社の理念に対し「内容がわかりにくい」「表現が抽象的だ」といって腹落ち感がない状態にあることは珍しくない。もちろん中身も大事だが、浸透のプロセスの方が腹落ち感に影響する度合いが大きいというのが筆者の感覚だ。理念の策定、あるいは再定義のフェーズでの中身の議論でエネルギーを使い果たしてしまい浸透策がおざなりになってしまうと、せっかくの理念が活用されないまま形骸化してしまう。

会社の置かれた状況によって浸透の難易度が変わる面もある。たとえば、創業オーナーによるトップダウンの会社と業界内の合従連衡でできた会社に天下りのトップが据えられたような場合では、前者の方が浸透が容易なのは想像に難くない。あるいは、一般消費者向けのBtoCの単一事業体に比べ、複数のBtoB事業に多角化しているコングロマリット企業では、メッセージの伝わり方のハードルが高くなる。

その意味で、コニカミノルタの事例は、統合会社として再出発し、事業の転換が進行中という文脈での理念浸透という難易度の高い中での取り組みであり、示唆に富むものだ。