武蔵野社長 
小山 昇
(こやま・のぼる)
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒。76年、現在の武蔵野に入社。89年から現職。500社以上の会員企業を指導する「中小企業のカリスマ」としても知られる。

話の上手、下手は素質ではありません。訓練をすれば誰でも上手に話ができるようになります。私自身も小学生のころは吃音がひどく、おまけに赤面症で、人と話すのは大の苦手でした。

訓練といっても、それほど難しく考えなくても大丈夫。要するに、上手な人の真似をすればいいのです。中学生時代に落語に出合ったことで吃音は改善されましたが、赤面症のほうは社会に出てからもなかなか治らず、とくに女性の前に出るとすぐに真っ赤になるので、20代のころはいまと違ってまったくモテませんでした。

さすがにこのままでは人生が楽しくない。そう思った私は、あるとき意を決して、友人の中でいちばん女性にモテた江口君にテープレコーダーと少なからずのお金を渡し、「おまえが女の子を口説いているところを録音してくれ」と頼みました。それで後日受け取ったテープを聞き、江口君と同じように話せるようにしたのです。すると、それまではまったく女性に相手にされなかったのが、5人にひとりくらいはデートの誘いに応じてくれるようになりました。まさに訓練の賜物です。

女性を口説くには、その女性が興味のある話をすればいいのであって、流暢でなくてもかまわない。これこそが、私が江口君のテープから得た最大の収穫でした。そして、これはビジネスにもそっくりそのまま当てはまります。

考えてみてください。みんな話し上手というと、立て板に水のごとくしゃべれる人を想像しがちですが、実際には、やたらと弁の立つ営業マンというのは、うまいこと言いくるめられ、高いものを買わされるかもしれないという警戒感を相手に抱かせるので、それほど成績は上がらないのです。

逆に、お客さんの疑問にきちんと答え、困っていることの解決策を提示できるなら、たとえしゃべり方はたどたどしかろうと、その人は必ずお客さんから信頼され、商品やサービスを買ってもらうことができます。

つまり、ビジネスにおいては、相手が必要としている情報を的確に提供できる人のことを話がうまいというのであって、ペラペラしゃべれるから話し上手というわけではないのです。