なぜ孫子は戦う前から勝ちが見えているのか

『実践版 孫子の兵法』鈴木博毅著(プレジデント社)

孫子は戦う前に「勝利の目算を高める」ことを何より重視していますが、リーダーが意識すべき5つの条件を列挙しています。この5つチェックポイントは戦場を選び、戦う態勢を整え、優れた将軍に実力を如何なく発揮させることを目指しています。

「1.彼我の戦力を検討したうえで、戦うべきか否かの判断ができること
 2.兵力に応じた戦い方ができること
 3.君主国民が心を一つに合わせていること
 4.万全の体制を固めて敵の不備につけこむこと
 5.将軍が有能であって、君主が将軍の指揮権に干渉しないこと」

(引用『孫子・呉子』守屋洋・守屋淳 プレジデント社より)

2の「兵力に応じた戦い方ができること」は、ビジネスに例えるならどのように始めるか、に当たります。従業員が数万人を超える大企業と、家族経営の延長線上にある小規模の会社では当然新規事業の始め方が違いますし、狙うべきチャンスの種類や規模も異なります。

美味しい話、すなわち何らかのチャンスが持ち込まれても必ずしも自社にとって絶好の機会であるとは限りません。素晴らしいチャンスでも自社の現在の環境と一致しない機会であれば手を出すべきではないかもしれないのです。逆に言えば、君主は「自分たちが戦うべき戦場」を見つけ出すことに最善の努力を注ぎ込む必要があります。組織のトップは自社が進出して有利になる戦場を選び出すことに能力を使い、選別したチャンスに対して全軍を突撃させる必要があるのです。

一度戦闘を始めると、勝敗がつくまで簡単に撤退できません。そのため一歩を踏み出す分野は慎重に選ぶ必要があります。ソフトバンクを巨大企業に育てた創業者、孫正義氏は若い創業当時、事業分野を決定するまで1年間をかけ、そのあいだ情報収集と業界研究だけに時間を注いだと言われます。とことん追求できる機会でなければ、安易に手を出したことで逆に成功へ遠回りになりかねないからです。したがって、追いかけ続けることができる機会か、慎重に見極める必要があります。戦闘が始まれば、この戦いに死力を尽くすことになるのですから、それだけの価値があるかを何より判断すべきなのです。