デザインした人 深澤直人氏(プロダクトデザイナー)

ここ数年、「デザイン家電」という言葉がよく使われるようになりました。従来、家電製品は家電メーカーが自社の工場でつくるものでした。しかし、中国、台湾などのアジア諸国で安くて質の高い電化製品が製造できるようになったため、企画やアイデアさえあれば、家電専業の会社でなくても家電を販売することができる環境が整いつつあります。こうした市場の変化を背景に、無印良品では生活雑貨用品を取り扱うメーカーとして、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、トースター、電気ケトルなどのキッチン家電の新シリーズを3月より展開しています。

家電量販店の中でいかに際立つか――家電製品の多くは、このことを大前提にデザインされてきました。電気ケトルでいえば、お湯が沸騰したことがひと目でわかる、安全のため沸騰するとすぐに電源が切れるような家電製品としての機能が施されているなど、量販店の店頭で他の製品と同類化しつつも、いかに優れているかがデザインとして強調されています。しかし本来、家電は家の中で使う生活雑貨でもある。私自身、家電も生活用品の一部であり、「家電」という特別なカテゴリーをもつ意味はなく、他のものと溶け合うようなものであるべきだと、ずっと現状を疑問に思っていました。先に挙げた電気ケトルを例にすると、無印良品のものは家電というよりも陶器や鍋、器などの日常生活品に近い、水差しのようなかたちをしています。

冷蔵庫にしても、家電量販店で陳列されている商品のボディーには色柄が施され、インテリア用品としても家具やキャビネットと同調せず、浮き立ってしまいます。だから、無印良品では家の中にあるほかのインテリアとなじむ色として、しかも冷蔵庫の定番色としての白とステンレス仕上げを使いました。

では、なぜハンドル部分はボディカラーと同じ白ではなくシルバーなのか。それは、ドアハンドルやタオル掛けのような住宅設備機材との調和を意識したためです。多くの住宅では蛇口やシンクなど、キッチン周りのツールには金属の質感が使われています。冷蔵庫にもこの色を取り入れることによって、より空間になじむものになると考えました。