東日本大震災のニュースを私は香港で知りました。朝から晩まで津波の映像を見せられ、日本全体が津波に襲われたと多くの香港人が感じたのです。さらに、その後の原発事故が安全な日本のイメージを決定的に変えてしまいました。

<strong>香港EGLツアーズ社長 袁 文英</strong>●1951年、香港生まれ。94年、同国で旅行会社を創業。震災後初の日本ツアーを再開するなど、日本の観光復興に精力的に取り組んでいる。
香港EGLツアーズ社長 袁 文英●1951年、香港生まれ。94年、同国で旅行会社を創業。震災後初の日本ツアーを再開するなど、日本の観光復興に精力的に取り組んでいる。

それでも弊社は震災後も日本ツアーを続行していました。私はガイドとして日本国内を隅々まで訪ねており、体で覚えた経験、土地勘がある。被災地以外は大丈夫という確信があったからです。

ところが、香港のマスコミや消費者から非難の声がわき起こりました。あるメディアから「(死地に客を送り込む)殺し屋」とさえ言われ、香港の議員数名が弊社に乗り込み、「キャンセル料を返金せよ」と迫りました。そしてやむなく震災の4日後、日本ツアーを中止したのです。

ツアー再開の時期を探るべく、3.11から2カ月間で合計5回来日しました。最初は3月30日で、弊社からの1000万香港ドル(約1億500万円)と私個人の100万香港ドル(約1050万円)の義援金を被災地に届けるためでした。当初、香港赤十字社に渡そうかと考えましたが、すぐに分配されないと知り、岩手、宮城、福島の県庁へ直接届けました。

株主の中には多額の義援金を出すことに反対意見もありましたが、弊社は2004年のタイの津波や08年の中国四川地震にも義援金を送っています。何より弊社が今日こうしてあるのは日本のおかげ、その恩返しがしたかったのです。