なぜ寒くなると腹が減るのか

ひと雨ふるごとに地表からの熱気が奪われ、肌寒さに半袖を長袖に替え、さらに羽織るものが増えるにつれて、わが食欲も増進してくる。この時期、熊や猿、猪、鹿なんぞがのこのこと人里へ現れるのも、ひとえに食欲のなせるわざであろう。

冬の寒さをしのぐためには、皮下脂肪が必要で、熊でさえそれを知っている。本能的に太ろうとするのは私もふくめ人間とて変わりはあるまい。

げにこの時期のダイエットは難しい。なにせ本能との闘いになるのだから。

なにかの拍子に、無性にラーメンが恋しくなることがある。減量中の身には禁忌の食物なのだが、それとわかっていても、食欲をそそられる。なぜだろうか。

そも、ラーメンをわが国で最初に製造、試食したのは、水戸黄門こと徳川光圀だといわれている。元禄10年6月16日と日付まで判明している。調理法も残されていて、それを再現した料理研究家が水戸にいるというので、会いに行ったことがある。01年10月初旬であった。

写真家の菅洋志さんとは、何回か仕事をともにさせて戴いたし、都内の「ボウモア」が置いてある店でよくお見かけした。アイラモルトは不憫な存在で(第17回参照 http://president.jp/articles/-/13263)、アイラ愛好というだけで親近感を抱いてしまう。そんな菅さんと水戸へ出かけた。

途中、喫茶店で飲み物を注文した際、女性アシスタントが飲んでいるのを見て、

「そっちの方がうまそうだな、交換してよ」

「イヤです」

しょんぼりする菅さんであったが、ちょうどその頃、高橋曻さんと毎月会っていた私はこの意外な光景に驚いた。高橋さんは柔道部か野球部の監督みたいで、スタッフが反論とか意見できるような雰囲気などみじんもない。そういう徒弟制が残っている世界なのだろう、と勝手に思い込んでいたからである。