“夜中にトイレに何度も行く”“駅の階段を上ると息切れする”“手が震える”といったことが起きていると、よく“年のせい”と他人にいわれたり、自分でもそう思う人が多い。が、実は病気の症状として出てきているケースもあるので、見逃してはいけない。

「手の震え」「首の震え」「声の震え」は、本態性振戦(ほんたいせいしんせん)の典型的な症状である。

もちろん、患者によって症状の出方はさまざま。最も多くの患者が訴えるのは「両方の手を伸ばしたときに細かく震える」というものだ。手を膝に置いてジッとしているときは震えないのである。

病名の“本態性”とは「原因がわからない」という意味。事実、まだわかっていない点が多いものの、神経系の病気であることはわかってきた。

本態性振戦では生活に支障がなければ治療の必要はないが、支障が出るほど症状が強い場合は治療すべきである。が、最初から放っておいていいというのではない。まずは正確な検査を行って本態性振戦と診断がついた場合に、治療の有無を主治医と十分に話し合うべき、と考えられる。

受診するときは神経内科へ。典型的なケースであれば、問診、視診でもわかってしまうが、非典型的ケースでは、パーキンソン病(中脳の黒質にある神経細胞によって起こる病気)の震えのように左右差がある。だから、パーキンソン病のみならず、脳梗塞、薬剤性振戦、多発性硬化症、書痙、アルコール依存症などとの区別を正確に行うため「RI(ラジオ・アイソトープ)検査」や「MRI検査」が行われる。

RI検査では交感神経終末の変性をみる。パーキンソン病であればそこが障害されているが、本態性振戦では障害されていることはない。

手が震えてはしで物が食べられない、文字が書けない、首が震えて人前に出られない。このようにQOL(生活の質)が低下し、患者自身が生活に不自由を感じると治療となる。

今日行われている治療は「薬物療法」が中心。末梢の交感神経の活動が上昇しているので、興奮を伝達するアドレナリンというホルモンをブロックする「β遮断薬」を使う。それでも震えが残る人には「抗不安薬」を。てんかん治療薬の「クロナゼパム」や「プリミドン」も効果がある。ただし、β遮断薬は喘息の人には発作を誘発するので使用できない。

薬物療法以外には、「定位脳手術」「深部脳刺激療法」「ガンマナイフによる定位脳治療」などが行われている。

定位脳手術はパーキンソン病の手術療法として長く行われてきた手術。頭蓋骨の頂上部に小さな孔をあけて電気針を脳深部の視床に挿入し、視床のごく一部を壊す手術である。患者の中には震えがピタッと止まる人もいる。

深部脳刺激療法もパーキンソン病の治療として行われているもの。脳深部の視床下核に電極を埋め込み、皮下に配線して胸部皮下に発信器を埋め込む。発信器から電気信号が送られて、視床下核を刺激し続ける。やはり震えが止まる。

ガンマナイフによる定位脳治療は手術ではなく、放射線を使った治療である。これはまだごく一部の施設でしか行われていない研究段階の治療である。

【生活習慣のワンポイント】

本態性でわかるように原因が解明されていないので、予防法はわかっていない。

だから、ワンポイントは本態性振戦になってしまった人の生活習慣である。緊張するとより症状が強く出るので、次の3点を実践するとよい。

(1)症状をくよくよと気にせず、おおらかに――。

(2)震えのあることを他人に隠す必要はない。

(3)お酒はたしなむ程度に(飲酒で症状が軽減するが一時的。頼りすぎるとアルコール依存症の危険もあるので、要注意!)。