政府が強力に後押しするハラール認証ブーム

笹川平和財団特別研究員 佐々木良昭氏

日本において、これまでほとんど耳にすることがなかった「ハラール」という言葉が最近脚光を浴びている。ハラールというのはアラビア語で「許された」という意味である。例えばイスラム法で食べることを許されたものをハラール食品と呼ぶわけだ。ムスリム(イスラム教徒)には豚肉食をはじめとして多くの禁忌があることは広く知られているかと思う。ムスリムが安心して食事をとれるよう配慮したものが、ハラール食品というわけだ。東京都内でもハラール食品を提供するレストランがじわじわと増えつつある。と同時に「ハラール認証」、つまり「この食品はハラールなので、イスラム教徒でも安心して食べられます」とお墨付きを与える組織も多く出てきている。私自身、ムスリムであるし、イスラム教の文化や精神が日本でも広く知られることは本来喜ばしいことなのだが、最近のハラール、およびハラール認証ブームを私は素直に受け入れることができないでいる。

まず、このブームの背景には何があるか。2013年は日・ASEAN友好協力40周年の記念すべき年であった。そのため13年7月には東南アジア5カ国のビザ発給要件が緩和され、以降、観光客数は順調に増加している。東南アジアからの旅行者増加、円高の解消、LCC(格安航空会社)の登場と普及などにより、13年の訪日外客数は前年比24%増で1036万人(日本政府観光局発表)となった。関係者一同が長年の悲願としていた年間1000万人を初めて突破したわけだ。観光庁をはじめとして、政府・関係省庁は、次なる目標、訪日外客数2000万人に向けて鼻息が荒い。また、13年9月には2020年オリンピックが東京で開催されることが決定した。世界中の国々から観光客が押し寄せることは間違いない。そして、その中には世界中で16億人とされているムスリムも相当数含まれるはずである。大量のムスリムが来日し、「日本にはわれわれが食べられるものがないじゃないか」と文句を言われてはその後の悪影響が大きい。そのため、実は公官庁や地方自治体は焦っている。あるいは地方の振興に使えると考えているかもしれない。だから一生懸命に企業をあおり、ハラール食品を提供すればビジネスが拡大するとうたい、企業もここで対応しなければビジネスチャンスを失ってしまうのではないかと、まんまと乗せられている。つまりこのブームは「官製ブーム」であり、同じような現象を私は過去にも目撃している。例えば1973年、石油ショックのまっただ中で、まさに雨後のたけのこのごとくイスラム団体が立ち上げられた。湾岸の産油国から金をせしめるために急ごしらえの組織が乱立したわけだが、そういった団体は2、3年もたてば跡形もなく消えてしまった。そんなわけで、今回のハラールブームも一過性のもので終わってしまうのではないか、と私は疑っている。そして、さらに問題なのは名ばかりで実がないハラール認証、そしてそれを生み出す「不良認証団体」が急増していることだ。