日本経済は消費税増税の逆風を乗り切り、株価は再び上昇局面に入ったようだ。2020年の東京オリンピックを控え、各社、攻めの経営が目立つ。少子高齢社会のなかで、企業はどこへ向かうのか。新たに経営トップの座についた人物を解剖し、未来への展望を開く。

切迫感を味方に「火事場力」引き出す

日本を代表する化粧品ブランドも近年、苦戦が続く。求められるのはブランドの再強化。日本コカ・コーラで、抜きん出たマーケティング戦略を進めた新社長の手腕に期待が集まる。就任後、海外も含めた現場を回り、1万人近くの社員と話した。その成果をどう生かし、資生堂をどこへ導こうとしているのか。

資生堂代表取締役執行役員社長
魚谷雅彦氏
――社員から本音が聞けたか?

【魚谷】「しゃべらせること」はリーダーの大切な仕事の一つだ。社長がただ話してくれと言っても社員は臆するから、「目が合ったね。君はどんな仕事をしているの」などと語りかけ、相手が話しやすい環境をつくって日頃思っていることを引き出すことを心がけている。「問題点と解決策をまとめて私のところに送ってほしい」と頼んだら、有意義な問題提起が多く寄せられた。

――問題把握の次に何をするか。

【魚谷】お客さま視点でブランド力を高めたい。“everything communicates”――ブランド価値の向上には社会とのつながりが重要だ。そのために、広告はもちろん、ビューティーコンサルタントの接客、メディアの取材など、あらゆるコミュニケーションにおいて「近頃の資生堂は元気だ」と思ってもらえる活動を展開したい。

――今まで仕事でピンチに立たされたことはあるか。

【魚谷】日本コカ・コーラに入社し、社長に挨拶してわずか2時間後に、缶コーヒー「ジョージア」の再生を託された。続編のCM撮影が既に決まっていたが、社内には「これでは厳しい」との危機感があることを知り、キャンセル料を払って一から新しいCMを作ることにした。販売第一線の責任者たちに説明すると、「入ってきたばかりのやつがなんてことをしたんだ。現場は戦ってるんだぞ!」とひどく叱られた。