最近は一般にも知られるようになった遺伝子解析サービス。しかし、「検査したら終わり」ではない。今後の医療のあり方を根本から問い直すパラダイムシフトを起こす可能性も秘めているのだ。

1. なぜIT企業は遺伝子ビジネスに注目するのか

「遺伝子解析」といえば、犯罪捜査や親子鑑定、最近では出生前診断などを思い出す人が多いかもしれない。しかし、今年に入ってから国内ではIT企業を中心に、遺伝子ビジネスへの参入が相次いでいる。

6月3日、ディー・エヌ・エー(DeNA)は東京大学医科学研究所と共同記者会見を開き、遺伝子解析サービス「マイコード」を発表。そして直後の6月5日、ヤフーは遺伝子と健康管理を組み合わせたプロジェクト「ヘルスデータラボ」のモニター募集を開始した。これらはいずれも、自分の遺伝子から病気のなりやすさや体質を知る、一般消費者向け(DTC)の遺伝子解析サービスだ。ソニーも今年初め、ゲノム関連事業に向けた新会社を設立している。今年までにサービスを開始する各社は文末の『国内の主な一般向け遺伝子分析サービス』の通りだ。

そして、米国での動きが先行していることは言うまでもない。米グーグル創業者夫人が創業し、グーグルも出資する23アンド・ミーが一般向けの遺伝子解析サービスを開始したのは、2007年のこと。当初999ドルだった費用も、一昨年末には99ドルまで引き下げてテレビCMも開始。顧客は50万人を突破した。女優のアンジェリーナ・ジョリーが「BRCA1」遺伝子解析で「乳がんになる確率が87%」と診断され、乳腺切除手術を行ったことも話題となった。

費用は10年間で数千分の1に低下
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ヒトの全ゲノム解析コスト

IT企業が遺伝子に注目するようになった理由は主に2つある。まずは「急速な価格低下」だ。遺伝子解析機器の性能は年々向上しており、解析費用は右肩下がり。10年前には20億円近くかかっていたヒト一人の全ゲノム解析費用は、近年は数十万円まで低下(右グラフ参照)。今年1月には遺伝子分析機器大手・米イルミナ社が、1000ドル(約10万円)で全ゲノム解析できるシークエンサーを発表し、話題となった。スニップ(ゲノムのなかで個人差がよく見つかる部分)だけを解析するならさらに費用は安い。その結果、企業が遺伝子解析を一般提供できるようになったのだ。