株価および現政権の支持率の下支え役とされる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、60%(乖離許容幅±8%)ある国内債券比率を引き下げ、12%(同±6%)の日本株の比率を20%超まで引き上げるという。

GPIFについて、株式比率50%のカリフォルニア州職員退職年金基金に倣えとよくいわれるが、こちらは公務員年金であって国民年金ではない。資産規模もGPIFの5分の1程度だ。

米国の公的な年金制度は老齢・遺族・障がい保険を併せてOASDIと呼ばれる。年金として集められた資金(税金)270兆円規模が米財務省管理のもとSocial Security Trust Fund(社会保障信託基金)に預けられ、運用先はすべて元金と利子を米政府が保証する米財務省の「特別債」のみと法で定められている。収益機会と損失は表裏一体ゆえ、元本割れしない着実な投資先に限定すべし――市場主義の米国ですら、こと国民年金の運用となると、これだけ保守的なスタンスなのだ。

米国民年金を株式投資に晒すリスクは多々ある。株式市場の参入・撤収の際には大量の取引が発生し、市場価格に凄まじいインパクトを与える。政府による民間企業の運営に対し、株主としての影響が生じる。そうした政治的影響力を排除した投資形態を維持するには膨大なポートフォリオ管理とそのための相当数の人員が必要、等々を米社会保障庁が挙げている。

ちなみに、株式運用5割と高比率なのがカナダ年金制度。運用を行う連邦公社CPPIBの資産規模はGPIFの7分の1だが人員数は実に12倍以上。わずか80人程度のGPIFで約130兆円の巨額基金を積極的に運用するには組織の体制自体に無理がある。

この規模では、金融危機の際に株式の売却、撤退を迅速に行うのは至難の業。日経平均の上昇トレンドが開始して間もなく2年、震災直後の最安値を拾うならともかく、遅れてきた投資家として高値追いをするならこれは短期売買の典型だ。長期投資で売り場を考えずというなら、自身の投資スタンスも確立できていないことになる。入り口(参入)だけで出口(撤収)の話をしないのは素人の典型だろう。

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